人手不足の昨今、雇用はしたいけれども、必ずしもフルタイムの正社員が雇えるとは限りません。また、育児や介護などによって、時短勤務を希望する従業員もでてくるでしょう。
フルタイム勤務の従業員と比べ、時短勤務の従業員は、給与の計算式が煩雑です。そこで今回は、時短勤務の従業員を雇用したときに備えて、給与計算の基礎知識を解説します。
「時短勤務」とは
1日の労働時間が所定の基準よりも短い勤務体系、それを短時間勤務制度、いわゆる「時短勤務」と言います。その種類や会社によって異なりますが、一般的なのは、育児や介護のための時短勤務制度でしょう。
企業は、「育児・介護休業法」によって『3歳未満の子どもを育てる従業員や要介護状態の対象家族を介護する従業員が希望した場合に利用できる短時間勤務制度を設ける』ことが義務付けられています。
そのため、これに該当する従業員からの申し出があった場合、企業側は時短勤務を受け入れる必要がありますが、働く時間が減っている分、給与計算も通常のフルタイム勤務者とは異なってきます。
時短勤務中の給与はどうなるのか?
結論、会社によってその計算方法は異なります。そもそも、給与体系の設計は会社にゆだねられているので、時短勤務中の給与計算方法も企業側に決定権があります。ただし、都道府県が定めた最低賃金を下回ってはいけません。
労働基準法には「ノーワーク・ノーペイ(働いていないと賃金は支払われない)」という基本的な考え方があります。つまり、「働いた時間に応じて給与が支払われる」という原則です。
したがって、時短勤務者は労働時間が短くなっている分、給料が少なくなるということ。なお、現在多くの会社で採用されているのは、「短くなった時間分は『無給』とする」というもので、厚生労働省の調査では、約8割弱もの企業が、この方針を取っています。
この場合、計算式は次のようになります。
【基本給25万円・8時間勤務の人が、6時間勤務に短縮した場合】
30万円(従前の基本給)×(6/8)=22万5000円
各種手当の計算
就業規則や雇用契約書にのっとって各種手当が支給されている場合も、時短勤務に合わせて計算をやり直すことがあります。ただし、その手当の内容によって対応が分かれてきます。
労働日数や労働時間を基準とするもの
通勤手当や宿直手当のように、労働日数に準ずるものについては、実際の労働日数と労働時間によって支給額を算出します。
職務に準ずるもの
役職や資格など、職務によって支給される手当ですが、こちらについては労働日数や時間が減ったとしても、減額の対象にはならないケースが多いです。就業規則であらかじめ定めている場合は、その限りではありません。
家庭関連の手当
住宅手当、扶養手当などが該当します。こちらも、時短勤務をしたからといって支給額が減るケースは、あまりありません。
賞与(ボーナス)の計算
ボーナスというのは、基本給とは違って法律で支給が義務付けられたものではありません。これも就業規則で事前に定めておくべきですが、一般的には「基本給を基準にして考える」「会社の業績・個人業績を基準に計算する」「どちらも複合して計算する」という3つのパターンがあります。
時短勤務者の「残業代」計算と割増率
時短勤務であっても、突発的な業務などで、契約した時間を超えて働くケースがあるかもしれません。ここで多くの担当者が迷うのが「残業代の割増率」です。
労働基準法では、1日8時間を超えた労働に対して25%増の割増賃金が義務付けられています。しかし、例えば「6時間勤務」の契約の人が1時間残業をして「7時間」働いた場合、法律上の上限である8時間を超えていません。これを「法定内残業」と呼びます。
就業規則で独自の規定がない限り、この1時間分については割増(1.25倍)ではなく、通常の時給分(1.0倍)の支払いで足ります。給与システムが自動的にすべて割増計算してしまわないよう、設定区分を明確にしておくことが重要です。
よくあるミス「反映漏れ・賃金体系の誤り」
時短勤務者の給与を計算する際によくあるのが、賃金規定や就業規則との照らし合わせがきちんとできておらず、計算式が間違ってしまうパターン。
たとえば、適用されるべき割増賃金(残業・深夜・休日出勤)の計算方法や手当の計算方法が従来のフルタイム社員向けになっていると、支給額が誤ってしまいます。
また、時短勤務により社会保険の報酬月額が変化するケースでは、「随時改定(所定時間・報酬変動時)」のタイミングで、正しく保険料を計算しないと、健康保険や厚生年金の保険料が過不足となってしまうリスクもあります。
こうしたミスを防ぐためには、給与計算を行う前に「所定時間」「実働時間」「手当・控除」「社会保険料率」「税額表」などを必ず確認しておきましょう。
まとめ
時短勤務社員の給与計算には、単に労働日や時間の変化だけなく、社会保険や各種手当といった、複数の要素が関わってきます。
また、勤怠管理をきちんと行えていないと、実際には遅刻していないのに「遅刻」「早退」の扱いになってしまうこともあるので注意が必要です。こうしたミスが起きると、従業員の不満や、労務トラブル・法令違反につながってきますので、しっかりと事前に知識をつけておきましょう。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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