「起業したばかりで、LGBTQ+対応まで手が回らない」「従業員がまだ数名だから、制度整備は後回しでいい?」こうした声は、創業期の経営者からよく聞かれます。しかし、創業時だからこそ、多様性に配慮した基盤を作ることが、将来の組織づくりを左右します。
LGBTQ+への配慮は大がかりな制度や予算がなくても始められますし、むしろ創業時から取り組んでいた方が手間が少なくなることも多いのです。そこで本記事では、創業期に最低限対応しておくべきポイントを、実務的にご紹介します。
なぜ創業時からLGBTQ+配慮が必要なのか
採用競争力に直結する
特に若い世代では、企業の多様性への姿勢を重視する傾向が強まっています。
電通が2023年に行った「LGBTQ+」に関する調査結果によると、約10%もの回答者が「LGBTQ+の当事者である」としています。さらに同調査で、「LGBTQ+支援を表明する企業」へのイメージを尋ねたところ、「社会の変化に対応できる」「ハラスメントが少ない」「社員が働きやすい」が上位に入り、LGBTQ+の当事者だけでなく、非当事者のあいだでもポジティブなイメージを持たれています。給与面などの条件が同一であれば「LGBTQ+支援を表明する企業」への就職を希望する人が6割超となっています。
つまり、LGBTQ+に配慮しているかは、当事者か非当事者かにかかわらず、優秀な人材を確保するための重要な要素となっています。
法的リスクの予防
2022年4月から中小企業にも「パワハラ防止措置」が義務化されています。性的指向・性自認に関するハラスメント(SOGIハラ)やアウティング(本人の了解なく性的指向等を暴露すること)も防止対象となりました。
創業時から、適切な対応について制度整備しておくことで、将来的なトラブルやコンプライアンスリスクを防げます。
後から制度変更するより、最初から作る方が楽
創業期は制度設計の自由度が高い時期です。すでに運用している制度を変更するには、既存社員への説明や調整が必要ですが、創業時なら「最初からこういう会社です」と示すことができます。
例えば、就業規則の「配偶者」の定義を最初から「法律婚および事実婚のパートナーを含む」と記載しておけば、同性パートナーも含めた運用が自然に行えます。後から追加する場合、既存社員から「なぜ今さら?」という疑問が出ることもあり、それが当事者の負担になるリスクもあります。
創業期に最低限やっておくべき3つのこと
①就業規則のハラスメント防止規定を整える
常時10人以上の従業員を雇用する場合、「就業規則の作成」と「労働基準監督署への届出」が義務となっています。それ以下の規模であっても、就業規則を作ることは推奨されています。
最低限盛り込むべき内容
- 性的指向・性自認に関するハラスメントの禁止
- アウティングの禁止
- 違反した場合の懲戒規定
②社内文書・システムの性別欄を見直す
社内で使う書類やシステムについて、多様性に配慮した形で設計することもできます。
チェックポイント
- 履歴書や入社書類の性別欄:必要性を検討し、不要なら削除
- 社員名簿:性別欄が本当に必要か再考
- 勤怠管理システム:性別入力を必須にしない設計
例えば、人事情報として性別が必要なのは、雇用保険や社会保険の手続き、健康診断の実施などに限られます。それ以外の場面では、性別情報を収集・管理しないという選択肢も検討可能です。
③福利厚生の適用範囲を明確にしておく(特にパートナーシップ)
創業時から福利厚生制度を設計する際、「配偶者」や「家族」の定義を明確にしておくことが重要です。
検討すべき項目
- 慶弔休暇(結婚、配偶者の死亡など)
- 家族手当・扶養手当
- 社宅・住宅手当
最もシンプルなのは、就業規則や福利厚生規程で「配偶者」を「法律婚の配偶者および事実婚のパートナー」と定義することです。これにより、同性パートナーも含めた運用が可能になります。
税務上の注意点
福利厚生とは会社が従業員に提供するものなので、「配偶者」の定義を会社が定めることができます。ただ、現在のところ、同性パートナーは税法上の配偶者控除の対象外です。企業が同性パートナーに福利厚生を提供する場合、従業員に給与課税される可能性があるので注意しましょう。
ただし、実質的に配偶者と同様の関係と認められれば非課税となるケースもあるため、個別の状況に応じて税理士・会計士に相談することをお勧めします。
少人数だからこそできる柔軟な対応
制度設計だけではなく、従業員への個別対応についても考えておきましょう。当事者が働きやすい環境を整備することは、従業員満足度の向上や、従業員が長く働いてくれることに直結します。
トランスジェンダー従業員への配慮
- 通称名(本人が希望する名前)の使用
- 服装の選択肢(制服がある場合、本人が選べる仕組み)
- トイレの利用(多目的トイレの活用など)
大切なのは「本人の希望を丁寧に聞く」という姿勢です。マニュアル通りの対応ではなく、「どうすれば働きやすいですか?」と対話することが、小規模企業の強みになります。
経営者自身の知識と意識がカギ
創業期の企業文化は、経営者の価値観に大きく影響されます。
最低限知っておくべき基礎知識
- LGBTQ+とは何か(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニング等)
- SOGIハラ、アウティングとは何か
- やってはいけない言動(「彼女はいるの?」といった異性愛前提の質問など)
海老名市、町田市では、自治体や商工会議所が主催するダイバーシティ研修が定期的に開催されています。こうした無料・低価格のセミナーを活用するのも有効です。
今すぐにできる「LGBTQ+」への取り組み
言葉遣いと社内文化の工夫
すぐに実践できること
- 「彼氏・彼女いるの?」ではなく「パートナーはいますか?」
- 「男性は力仕事、女性は事務」という性別役割分担をしない
- 朝礼や会議で多様性尊重のメッセージを発信
これらは制度設計などの前に今日から始められます。
相談しやすい環境づくり
従業員が少ない創業期だからこそ、経営者との距離が近く、相談しやすい環境を作れます。
- 定期的な1on1ミーティングの実施
- 「何か困っていることはない?」と声をかける
- 外部の相談窓口(自治体の相談窓口、社労士など)の情報を共有
そして、もし社員から性的指向や性自認について相談を受けたら、以下を心がけておきましょう。
- 傾聴する(否定したり驚いた態度を見せない)
- プライバシーを厳守する
- 本人の希望を確認する
- 必要に応じて専門家(社労士など)に相談
まとめ
創業期のLGBTQ+対応は、大がかりな制度や予算は必要ありません。まずは、小さな一歩として以下の3つから始めましょう。
- 就業規則にハラスメント防止規定を明記する
- 社内文書の性別欄を見直す
- 福利厚生の「配偶者」定義を明確にする
これらは、創業時だからこそ低コストで実現でき、将来的な採用競争力や企業文化の土台となります。「多様性に配慮した会社を作りたいけれど、何から始めればいいか分からない」という方は、まずはお気軽にご相談ください。小さな一歩が、10年後の企業文化を作ります。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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