当初は一人で始めた事業でも、軌道に乗ってくれば従業員を雇う日がやってきます。初めて従業員を雇用するのであれば、その手続きの多さに驚くでしょうが、すべての手続きは従業員の生活にとって非常に大切なものです。
雇用手続きには「法律で義務付けられた手続き」や「従業員が安心して働くための環境整備のための手続き」という役割があります。これを怠ると、従業員から不満が噴出するだけでなく、行政からの指導や罰則の対象になることもあります。
そこで今回は、はじめての方でも分かりやすいよう、従業員の雇用手続きについて解説します。
従業員を雇う前に確認すること
従業員を採用する前には、以下の点を確認しておきましょう。
・雇用形態(正社員・契約社員・アルバイト・パート など)
・労働条件を明確にする(給与・勤務時間・休日・雇用期間 など)
・必要な手続きを把握しておく(税務署・労働基準監督署・ハローワーク など)
なかでも「雇用後の手続き」は非常に種類が多いので、事前に確認しておいた方が安心です。
雇用手続きの流れと必要な届出
従業員の雇用が決まったら、法律で定められた手続きを進めていきます。今回は、一般的な雇用後の流れについて説明していきましょう。
STEP 1. 労働条件通知書(または雇用契約書)の作成・交付
採用が決まったら、まずは労働者に条件を提示します。「労働条件通知書」や「雇用契約書」などの書面を作成し、雇用側と労働者側、双方が納得したら署名押印して雇用契約を結びます。
労働条件通知書(雇用契約書)の提示は、労働基準法で定められています。
【記載必須事項】
・雇用期間(期間の定めがあるか)
・就業場所・業務内容
・労働時間・休憩・休日
・賃金(給与)・支払い方法
・退職に関する事項(解雇・定年 など)
STEP 2. 「労災保険」「雇用保険」の加入手続き
労災保険(労働者災害補償保険)とは、業務中や通勤中に病気・怪我をした場合に給付される保険のことです。
一方、雇用保険は職を失った場合に給付される保険です。11桁の雇用保険者被保険者番号が個人に振り分けられていますので、過去の雇用保険に加入したことがある内定者には、提出を求めます。
労災保険・雇用保険どちらも、従業員を一人でも雇っている事業所はすべて加入する義務があります。
労災保険 加入手続きの流れ
事業所の住所を管轄している労働基準監督署へ行って、「保険関係成立届」を提出します。次に「概算保険料申告書」という書類を作成します。労働保険番号が振り出されたら、「納入済通知書」を受け取り、保険料を前払いで支払います。
労災保険は、雇用してすぐに提出する必要があり、遅れると罰則が発生することもあります。
雇用保険 加入手続きの流れ
雇用保険は、週20時間以上勤務する従業員が対象となります。
「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」を作成し、雇用開始から10日以内にハローワークに提出します。
STEP 3. 「社会保険」の加入手続き(健康保険・厚生年金)
社会保険とは、健康保険と厚生年金のことです。
社会保険の適用を受ける事業所に該当している提供事業所の場合は、社会保険の加入手続きを行います。
適用事業所には、強制的に加入が義務付けられている「強制適用事業所」と、加入を任意で選べる「任意適用事業所」の2種類に分かれているので、どちらに該当するか確認しましょう。
<強制適用事業所に該当する事業所とは?>
・常時5人以上の従業員を雇用している(飲食、理美容業、農林漁業を除く)
・事業主を含む従業員1人以上の国、地方公共団体、または法人の事業所
社会保険 加入手続きの流れ
従業員を雇用してから5日以内に、「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」を、事務局や年金事務所に提出します。
STEP 5. 「税務署」への届出(源泉徴収義務者の手続き)
雇用した従業員の所得税や住民税などの税金についての手続きも、同時に行いましょう。
所得税に関する手続き
入社時に従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を受け取ります。この内容を元に、源泉徴収簿を作成します。
次に「給与支払事務所等の開設届出書」を作成し、税務署に提出します。
事業所は、給与を支払う際に、従業員の所得税を天引きして税務署に納付する義務があります。そのため、従業員に代わって毎月もしくは半年ごとに、税務署に住民税を納付します。
この手続きは、従業員を雇用したらすぐに行う必要があります。
住民税に関する手続き
住民税は、前年の所得に対して課税されるものです。雇用する従業員が「普通徴収」か「特別徴収」なのかで手続きが異なります。
普通徴収(個人事業主だった人やフリーランスを採用した)場合
普通徴収とは、個人が支払い手続きを行って納税するものです。
内定者がこれまで普通徴収で住民税を支払っていた場合は、これを特別徴収(会社が代わりに住民税を納める)に切り替える手続きが必要になります。
内定者は、納付書や領収書を持って「特別徴収への切替申請書」を、自分が住む居住地の役所へ提出します。
特別徴収(他の会社から転職してきた人を採用した)場合
特別徴収は、雇用主が従業員の代わりに住民税を納める制度です。毎月の給与から天引きして、住民税を納めていきます。
内定者が前職でも特別徴収だった場合、「特別徴収にかかる給与所得者異動届出書」を会社側が、内定者の居住地の役所に提出します。
まとめ
従業員を雇う際の手続きは、労働条件通知書の作成、雇用保険・社会保険・労災保険の加入、税務署への届出など、多岐にわたります。
また、これらの手続きを行うために内定者から事前に書類や、関連資料を集めておく必要があるので、はじめて従業員を雇用する人は戸惑うかもしれません。
ただし注意しなくてはいけないのが、それぞれの手続きに締め切りが設けられていること。特に、労災保険や所得税の手続きは雇用したら即日行わなくてはいけないので、絶対に遅れないようにしましょう。
特に専門性が高い、節税対策や資金調達については、適宜アドバイスを受けながら進めていくことで、安定的な経営につながると思います。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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