代表取締役(取締役)、会計参与、監査役の、会社法で定められた「役員」に対して支払う賞与は、一定の要件を満たすことで「事前確定届出給与」として扱うことができます。
この「事前確定届出給与」の制度を利用すると、社会保険料が節約できるという側面がありますが、制度を活用するには届出も必要になります。
そこで今回は、この「事前確定届出給与」の概要とメリット、届出方法や期限について解説します。
事前確定届出給与とは?
「事前確定届出給与」とは、役員賞与のうち一定要件を満たした報酬のことを指します。この要件というのが、次の4つです。
【事前確定届出給与の要件】
・事前に金額と支給時期を定めること
・株主総会などで決議すること
・税務署に届出を行うこと
・事前に決めた金額と支給時期の通りに支払うこと
通常、役員賞与は後付け的な意味合いが強く、損金(経費)として認められにくい傾向にあります。しかし事前確定届出給与を活用すれば、「事前に決められた・公正なルールで支給した」ことが証明できるため、損金算入が可能になります。
損金に算入できるということは、その分の課税所得が少なくなるということ。そのため、税金の負担額を抑えることができるようになるのです。
毎月支払う「定期同額給与」との違いは?
役員に支払う報酬の種類は、給与と賞与に分類されます。「定期同額給与」は、毎月一定額を支払う役員報酬のことで、その金額が固定されているため届出なしでも損金参入が可能です。
一方、事前確定届出給与は「不定期にまとめて支給する賞与」として扱われ、届出が必須になります。
つまり毎月の定額報酬にプラスして、賞与部分を「事前確定届出給与」として届け出ることで、税務上のメリットを享受できるのです。
「事前確定届出給与」届出の具体的な流れと書類内容
役員賞与を事前確定届出給与として計上するためには、次のような手続きが必要です。
・株主総会などで報酬額と支給日を決定
・事前確定届出給与に関する届出書の作成
・税務署へ提出
まずは報酬額と支給日の決定ですが、これは株主総会などを開いて承認を得る必要があります。税務調査があった際には議事録の提出が求められることがありますので、議事録はきちんと作成し保管しておきましょう。
次に、届出書を作成して税務署に提出します。提出には期限が設けられており、株主総会などによる決議を行った日から1カ月以内、もしくは決算日の翌日から4カ月以内のどちらか早い方が期限です。
届出書には、法人情報や株主総会で決議をした日、概要を記載する欄が設けられているので、すべて間違いなく記載しましょう。届出書は国税庁のWEBサイトからダウンロードすることができます。
記載内容と実際の支給において1円でも差があると受理されないこともあるので、正確に記載することが重要です。
注意点、変更が必要になった場合
この届出どおりに賞与を支給しないと、事前確定届出給与と認められず、賞与の損金算入が全額できなくなるというリスクがあります。たとえば届出で「100万円支給」と書いておきながら、80万円しか支給されなければその80万円も損金とは認められません。
なお、「職務内容の変更」や「業績の著しい悪化」など正当な理由(臨時改定事由)がある場合には、所轄税務署へ「変更届出書」を提出することで対応可能です。変更届も「改定事由が発生した日から1カ月以内」が原則です。
実務運用のポイントとメリット
事前確定届出給与は、事前計画に沿って賞与を明確に区分できるため、税務上の明瞭性が高まります。報酬体系に透明性があると、社内・外部に対する信頼も向上します。また、業績が不安定な時期でも計画的に報酬を支払えば、役員のモチベーション維持にもつながります。
それでも「書式が難しそう」「いつ支給できるか想定しにくい」などの疑問がある場合は、会計事務所や税理士・社労士に相談するのがおすすめです。実務経験を活かした具体的なアドバイスで、確実に制度が活用できるようになるでしょう。
まとめ
事前確定届出給与は、役員賞与を計画的かつ公正に支給するための制度です。創業したばかりの中小零細企業でも利用できるため、多くの会社がこの制度を利用しています。
ただ、税務上のメリットを得られる一方、期限や書類記載には高い正確性が求められますので、1円単位・1日単位で正確に賞与を支給することが必須です。
事前に役員賞与を決めるということは、普段から会社の財務状況を適切に把握しておくことが大前提になってきます。業績が悪化した場合には、金額や支給時期を変更することも可能ですが、「著しく悪化」した時のみに限られるため、やはり事前に計画性を持って金額や支給時期を決めなくてはいけません。
制度を利用するに当たって不安がある方は、ぜひ信頼できる会計事務所にお問い合わせください。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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