会社設立コラム

事前確定届出給与を使えば、社会保険料を節約できる?

前回のコラムで解説した「事前確定届出給与」。この制度を利用することで、役員(代表取締役、取締役、監査役、会計参与など)へ支払う報酬を、損金として計上できます。

損金として計上できるということは、会社における課税金額を抑えることができ、結果として節税につながりますが、それ以外にも社会保険料が節約できるという側面もあります。

そこで今回は、事前確定届出給与と社会保険料の関係性、なぜ保険料節約につながるのか?を解説していきましょう。

【前回のコラム】
「事前確定届出給与」とは? 制度概要と届出方法

社会保険料負担との接点

なぜ、事前確定届出給与を利用すると社会保険料の節約になるのでしょうか。それは、社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の金額を算出する際に取られている計算式に理由があります。

社会保険料(健康保険・厚生年金など)は毎月の給与に基づいて計算される「標準報酬月額」と、賞与に基づいて計算される「標準賞与額」で計算されています。

「標準報酬月額」は給与額に応じて社会保険料の額が決まりますが、「標準賞与額」には上限が設けられていて、年間573万円(毎年4月1日から翌年3月31日までの累計額)までとなります。それを超えた部分については徴収されません。

これが、所得税・住民税と社会保険料の大きな違いで、この制度の仕組みを利用することで、社会保険料を節約することができるのです。

定額給与と事前確定届出給与を使い分ける

毎月一定の金額支払われる「定期同額給与」と、届出を行って承認を得た「事前確定届出給与(=賞与)」とでは、社会保険料の計算方法が異なります。

定期同額給与では月間支給額全額に保険料がかかる一方、賞与は上限があるため、それを超えた分については負担が抑制されます。

そのため、月々の報酬を控えめにし、賞与として集中的に支給することで、社会保険料を計画的に抑える戦略が可能となっています。ただし、これを不正に運用すると税務や社会保険上の問題につながるため、制度として正しく活用することが欠かせません。

利用時の注意点とリスクについて

制度運用に際しては注意点も多くあります。

まず、届出内容通りに支給しないと、税務上は損金算入が否認され、さらに社会保険上も「給与として」扱われて追加保険料が課される可能性があるという点です。

そして、眼前の社会保険料削減ができても、将来に受け取る年金の額が少なくなってしまうことや、定期同額給与をもとに算出される退職金が少なくなってしまいます。

これまでの判例によると、役員の退職金(役員退職慰労金)は、出社最終月にもらうと給与扱いになってしまい、賞与には含まれないことになります。

そのため、この戦略が本当にお得なのかどうかは、細かく計算して確かめる必要がありますし、そもそもこの制度は節税が目的ではなく、「報酬支給の透明性を高める」ことが目的なので、財務状況を適切に把握・報告する必要があります。

今後、この仕組みが変わってしまうことも

この制度を利用すれば、定期同額給与(月次の給与)を最大限減額させ、事前確定届出給与(賞与)の金額を増やすことで、社会保険料を最大限抑えることができます。

ただし最近の動きとして、厚生労働省ではこうしたやり方を認めないという方向性から、「賞与支給が通常の月とは比較できないほど多い」という場合、社会保険料の費用負担を意図的に抑制していると判断され、賞与分の金額を給与に組み込んで計算することがあります。

この、事前確定届出給与の制度については、国内部からも疑問の声が上がっており、いずれ近い将来使えなくなる未来もあり得ます。その時に困らないよう、次の一手を考えておくことはとても大切です。

まとめ

「事前確定届出給与」を使って、給与を低くし、報酬の金額を高くすることで、社会保険料が抑えられるという仕組みがお分かりになったと思います。

前回のコラムでも紹介したように、事前確定届出給与の承認を受けるには、事前に税務署にいって届出を依頼することになります。その届出には、法人概要のほか、決議を取った日、決議の概要、支払額・支払い日などを記載する欄がありますが、特に「(賞与の)支払額」「支払い日」を少しでも間違えると、税務署から突き返されてしまうので、書面を出す際にはぜひ一度ご相談ください。

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執筆者紹介

眞崎 正剛
眞崎 正剛税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。

慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」