会社を経営するに当たっては、法人税・所得税・住民税といったさまざまな税金がかかります。経営を安定させるためにも、不要な税金はなるべく抑えたいところ。そこで目をむけて欲しいのが役員報酬です。
会社から自分自身へ役員報酬を支払うという人は、役員報酬の一部を「通勤手当」として支給することで節税することが可能です。
そこで今回は、通勤手当の仕組みや条件、注意点について解説します。
通勤手当の基本
通勤手当とは、会社が従業員や役員に支給する「自宅から職場までの交通費補助」のことです。労働基準法上においては、通勤手当は賃金の一部として扱われます。
通勤手当の対象には電車やバスの運賃、自家用車のガソリン代、駐車場代などが含まれ、一定の非課税限度額内であれば税金がかかりません。
- 電車・バス利用:月額15万円まで非課税
- 自家用車通勤:通勤距離に応じた非課税上限あり(片道10km以上なら月7,100円など)
従業員だけが利用できると思われがちですが、役員も対象です。ですので、会社から代表である自分自身に通勤手当を支払うことも、もちろん可能となります。
通勤手当で経営者が得られる2つの大きな節税メリット
通勤手当を支給することで、次のような節税メリットがあります。
所得税・住民税の軽減につながる
通勤手当というのは税法上で「給与」の勘定科目に当てはまりますが、会社に出勤するための必要経費として扱われるため非課税となっています。その性質上、役員報酬の一部を通勤手当として支給することで、経営者の課税所得を減らすことができ、結果的に役員個人の所得税や住民税の負担を軽くすることができるのです。
例えば、役員報酬を年間700万円受け取っている場合、そのうち月3万円×12ヶ月=36万円を通勤手当にすると、課税所得は700万円-36万円=664万円です。所得税は累進課税で、695万円以下は税率20%、695万円を超えると税率23%となりますから、税率を引き下げることができます。
このケースで具体的に計算してみると、通勤手当を支給しない場合の所得税は約97万円、通勤手当を月3万円支給に振り替えた場合の所得税は約90万円となり、約7万円の節税になります。
法人税の節税になる
会社が支給する通勤手当は、基本的に支払った額の全額を経費として計上することができます。役員報酬というのは従業員の給与とは違って、そのままの状態で経費にすることはできません(損金不算入の費用)。
そのため、役員報酬として受け取る金額の一部を、経費として計上することができる通勤手当として支給することで、法人の利益を圧縮し、法人税を抑えることができるのです。
通勤手当を受け取るための条件は?
経営者が通勤手当を受け取るためには、いくつかの条件を満たす必要があるので注意しましょう。
実際の通勤費用に基づくこと
自宅から会社までの正確な交通費を算出しておきましょう。通勤手当として支給できるのは、その分の金額のみです。また、通勤手当の原則として「最も経済的かつ合理的な経路及び方法で通勤した場合」と、所得税法で定められています。
迂回ルートで計算する、ほとんど自宅勤務で出勤する必要がないのに通勤手当を支給する、といったことは税務署から指摘を受けるので、避けるようにしましょう。
社内規定に「通勤手当」があること
通勤手当というのは、会社側に支払い義務はありません。つまり、通勤手当の支給自体は会社側の裁量に任せられていて、法律で定められているわけではないのです。
そのため、通勤手当を支給する際には、全従業員が同じ制度を利用できるように社内規定を整える必要があります。
通勤手当の社内規定では、次のような項目を記載します。
・支給要件
(会社から3km以上に住んでいる場合は支給する、徒歩で通勤している場合は支給しない、など)
・利用できる交通機関・交通用具、およびそれぞれの通勤手当の算出方法等を定める
(基本的にバスや電車を利用すること、〇〇の条件を満たした場合のみマイカー通勤を認める、など)
・休職者、退職者への支払い要件を定める
(10日以上出勤した場合のみ支給、出勤した日数の日割り計算で支給、など)
通勤手当支給時の注意点
次に、通勤手当を支給する際の注意点についてまとめます。
支給要件は明確に
仮に、従業員を雇用しておらず経営者当人のみの法人であっても、通勤手当として支給する場合は、支給要件を定義しておかなくてはいけません。あくまで会社の規定に則って支払われる経費として計上するので、要件定義は必須です。
過度な支給はNG
実際にかかる通勤費から大きくかけ離れた支給は、税務調査で否認されることがあります。適切な交通費を算出し、適正価格を支給するようにしましょう。
マイカー通勤の場合、メンテナンス費用は個人負担
自動車で通勤するマイカー通勤の場合、ガソリン代は交通手当として算入することができますが、自動車のメンテナンス費用は個人負担になります。
まとめ
通勤手当を活用することで、「法人税」と「経営者個人の所得税」の両方を節税することができるので、知らなかったという方はぜひ取り入れることをおすすめします。ただし、社内規定の整備や、税務調査への備えも同時に行う必要がありますので、迷っているという方は一度専門家に相談してみることがおすすめです。
特に専門性が高い、節税対策や資金調達については、適宜アドバイスを受けながら進めていくことで、安定的な経営につながると思います。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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