会社を設立して1年目というのは、事業を軌道に乗せるため、経営者は日々の仕事に奔走することになります。売上の確保や人材の確保、商品やサービスのブラッシュアップに注力する中で、つい後回しにされがちなのが「税務処理」です。
しかし、税務処理を誤ると追徴課税やペナルティの対象になるだけでなく、社会的信頼性の低下や資金繰りの悪化にもつながります。
そこで本記事では、「創業初年度にありがちな税務処理のミス」と、その対策方法について解説します。
青色申告承認申請書の未提出、複式帳簿の記入ミス
創業直後の経営者が意外に見落としやすいのが、税務署や自治体への「青色申告承認申請書の提出」です。法人設立届や開業届(個人事業主)、必要に応じて各種許認可の届けなど、事業を立ち上げるだけでも様々な届け出が必要になりますが、ばたばたしているうちに、青色申告承認申請書の届けを忘れているケースが多くあります。
青色申告には「65万円控除」や「赤字繰越」など、節税メリットが大きい特典が多いのですが、原則として開業から2か月以内に提出しないと、その年は青色申告が適用されません。
また、青色申告は複式簿記での提出が必須です。複式簿記で帳簿を付けられないという方は、会計ソフトを導入して複式簿記に対応するか、税理士と相談するようにしましょう。
経費の区別ミス・事業と私用領収書の混同
創業1年目に最も多いのが、経費の勘定科目の誤りや、金額の誤りです。特に、自宅兼事務所の場合や、プライベートと業務が入り混じった支出では判断が難しいことも多く、初めて財務処理をする人にとってはミスなく済ませることは至難の業です。
例えば、次のようなミスがあげられます。
・私用のレシートを事業経費に含めてしまう
・家賃や光熱費の按分が適切でない
・会議費と交際費の分類誤り
・減価償却の対象資産を一括経費にしてしまう
創業期は、個人の支出と会社の支出が入り混りやすい時期でもあります。個人用のクレジットカードで事業用の物品を購入することもあるでしょう。その逆に、会社の資金で個人用の物品を購入することもあるでしょう。
ですがこのような「経費と私的支出の混同」は、税務調査で最も指摘されやすいポイントです。明確な区分がなされていないと、経費の一部が否認されたり、役員賞与とみなされて重加算税の対象になる恐れがあります。
こうしたミスを防ぐためにも、創業してすぐに事業用口座やクレジットカードを分けるなどして、経費の支出管理を明確にしておくことがお勧めです。また、会計ソフトの導入や、支出については都度細かくメモを残しておくなど、日常的に会計管理をしておくことが大切です。
消費税の課税事業者となる時期の誤解
創業初年度は、売上が1,000万円以下であれば「消費税の免税事業者」として扱われます。しかし、資本金1,000万円以上で設立した法人や、2期目以降で売上が急増した場合は、課税事業者となる可能性が出てきます。
「自分は免税事業者だから大丈夫」と思い込んでいたら、実は条件を満たしておらず、申告・納付を怠っていたというケースも珍しくありません。
免税・課税の判定は複雑ですので、特に設立初年度の法人は、資本金額と設立時期に注意する必要があります。不安な場合は、税理士に相談して課税区分を明確にしておきましょう。
源泉所得税と住民税の納付忘れ
創業1年目から従業員を雇用しているという場合は、源泉所得税と住民税の納付忘れに注意しましょう。給与や報酬を支払った場合、原則的には会社からこれらの税金を納付する必要があります。これらの税金を払い忘れてしまうと従業員に迷惑がかかるだけでなく、社会的な信頼も大幅に低下してしまうので注意しましょう。
納付忘れを防ぐためにも、従業員を雇用したらまずは社労士に相談し、どんな対応が必要なのか知識をつけることが大切です。また、住民税は毎月納付するものですが、従業員が10人以下の場合は「納期の特例」が適用されます。届出を提出することで、年2回にまとめて納付でき、業務の負担が大幅に削減できます。
まとめ
創業初年度は、すべてが初めての連続であり、税務や労務の知識をつけるまで手が回らないこともあるでしょう。しかし、知識が乏しいことで損をする可能性が非常に高く、特に青色申告の申請漏れについては非常に多く見られます。
今回ご紹介したミスは、どれも起こりやすい一方で、しっかりと対策を講じることで未然に防げるものばかりです。もし不安があれば、早めに税理士や社労士に相談し、プロの知見を借りながら正しい仕組みを作っていきましょう。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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