政府が行っている補助金政策のひとつに、「キャリアアップ助成金」というものがあります。契約社員やアルバイト、パート従業員といった非正規雇用従業員を正社員として登用する際に使える助成金で、対象となる企業もかなり幅広く設定されています。
今回は、このキャリアアップ助成金について、そして2025年度の変更点について解説します。
キャリアアップ助成金とは?
「キャリアアップ助成金」とは、有期契約社員やパート・派遣社員などの非正規労働者の安定的な雇用や、処遇改善を目的に作られた国の助成金制度です。非正規労働者(正社員ではない労働者)を正社員登用したり、または賃金を引き上げた企業を対象に最大80万円の助成金が支給されます。
この助成金が創設された背景には、「非正規雇用人材と正規雇用人材の労働格差」「人材を定着させ、企業の体力を底上げする」「中小企業への支援」、そして「働き方改革の推奨」といった目的があり、それぞれの目的に応じて、申請要件も異なります。
「正社員化コース」をはじめ、いくつかのコースがありますが、2025年度には社保加入や処遇の変更などを対象にした「短時間労働者労働時間延長支援コース」が新たに導入され、合計6つとなりました。
以下、キャリアアップ助成金の主軸となっている「正社員コース」を中心に、各コースについて紹介します。
「正社員化コース」の仕組みと2025年改定ポイント
「正社員化コース」は非正規から正社員への転換を支援するプランです。キャリアアップ助成金の中心を担っており、助成金額も大きいのが特徴です。
申請要件:
- 「キャリアアップ計画」の作成、提出
- (正社員化規定がない場合)就業規則に正社員転換ルールを盛り込む
- 規定に則って正社員に転換させる
- 転換前後6か月の賃金を3%以上増額させる
助成額(中小企業の場合):
- 重点支援対象者※(有期→正社員):最大80万円
- その他の有期→正社員:40万円
- 重点支援対象者(無期→正社員):40万円
- その他(無期→正社員):20万円
※「重点支援対象者」とは、次の条件のいずれかに該当する者
・雇入れから3年以上の有期雇用労働者
・雇入れから3年未満で、次の①②いずれにも該当する有期雇用労働者
①過去5年間に正規雇用労働者であった期間が合計1年以下
②過去1年間に正規雇用労働者として雇用されていない
・派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定の訓練修了者
2025年度の主な変更点
キャリアアップ助成金「正社員コース」では、これまで以上に正社員化を促進するための改定がなされています。2025年の改定では「重点支援対象者」という区分を増やしたことで、正社員コース内での区分けが4つに増やされました。
また、新卒1年未満の人材は対象外になりました。申請時に提出する「キャリアアップ計画書」の認定を不要として、手続きを簡素かつスピーディーに行えるようにしています。
その他のコース:処遇改善・賃金引き上げ・社会保険加入
賃金規定等改定コース
有期雇用者の基本給を3%以上引き上げた場合に対象となります。助成金額は最大7万円です。さらに、基本給引き上げ制度を活用すればさらに20万円支給されます。
短時間労働者支援コース(※2025年7月開始)
年収の壁(106万・130万円)を超えずに社会保険加入や時間延長等を行った場合、中小企業は1人あたり最大50万円が支給されます。
社会保険適用コース
週労働時間延長と賃金引き上げをして、非加入者を社会保険に適用させた場合、最大40万円が支給されます。
「キャリアアップ助成金」申請の流れ
申請の流れ
- キャリアアップ計画書をコース実施前に労働局へ届出(電子申請可)
- 就業規則の整備
- 従業員の正社員化や処遇改善の実施
- 6か月の実施後に支給申請(実施後2か月以内に提出)
- 労働局による審査に通過後、支給
注意点
キャリアアップ助成金を受けるには、所定の要件を満たしながら、必要な書類一式を適切に提出する必要があります。提出書類は適用したいコースによって異なり、多岐にわたります。申請時には社労士などの専門家からアドバイスを受けて進める方が安全です。
また、キャリアアップ計画書に記載した内容とスケジュールの遵守も必須で、この計画と内容が異なっていると判断された場合は、不正受給となり返還の対象になります。
まとめ
2025年の改定におけるポイントは、「重点支援対象者」が創設された点と、キャリアアップ計画書の認定が不要となったことで手続きが簡素になった点です。この改定により、キャリアアップ助成金制度は、さらに利用しやすいものになりました。
助成金を得るために正社員雇用を推し進める…という会社はほとんどないと思いますが、今後も全業種的に慢性的な人手不足が続くため、今働いてくれている非正規雇用人材を正社員として雇い入れることは、経営戦略的にも有効です。
さらにこの市況下では、従業員の賃上げも積極的に行う必要があります。特に中小企業においては、使える助成金はきちんと受け取っておくことが重要です。大きな額ではないかもしれませんが、それだけでもコストを軽減することができますので、なるべく活用するようにしましょう。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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