退職は円満に終わることが理想ですが、実際の現場では「未払い残業代の請求」「退職金の金額トラブル」「引き継ぎ拒否」「競業行為」など、退職をきっかけにトラブルへ発展するケースは後を絶ちません。
厚生労働省が公表した「2024年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談件数は120万1,881件に上り、5年連続で120万件を超える高止まりの状態が続いています。
特に小規模企業では、規程の整備不足や運用の曖昧さが問題を拡大させる要因になりがちです。本記事では、退職社員と揉めたときに真っ先に見直すべき社内規程を、実務的な視点から解説します。
就業規則の「退職・解雇規定」は明確か?
退職トラブルの多くは、就業規則の「退職・解雇」に関する規定の不備から生まれます。まず確認すべきなのは、以下の内容が明文化されているかどうかです。
- 退職の申し出期限(例:退職日の〇日前まで)
- 退職手続きの流れ(業務引き継ぎ・備品返却など)
- 解雇事由の具体的な列挙
- 懲戒解雇の適用条件
退職については、民法上は期間の定めのない雇用契約であれば原則2週間前の意思表示で可能とされていますが、実務では就業規則で「1か月前」などを定めるケースが多く、この点が「急に辞める」「もっと早く言うべきだった」というトラブルの温床になりがちです。
また、解雇については、労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由がない解雇は無効とされています。就業規則に解雇事由が具体的に記載されていないと、後に会社側が不利な立場となるケースが高いのが現状です。
退職トラブルが起きたら、まず就業規則の退職・解雇条項をチェックし、見直すべきポイントや不備がないか確認しましょう。
未払い残業代トラブルを防ぐ「賃金規程」の整備
退職時に最も多いトラブルの一つが、退職後に届く「未払い残業代の請求」です。内容証明郵便が届いてから慌てて記録を確認しても、後の祭りになることが少なくありません。
この問題の背景には、「賃金規程と実際の運用のズレ」があります。特に注意すべき点は以下になります。
・固定残業代(みなし残業)の規定が曖昧な場合のリスク
固定残業代制度を採用している場合、「基本給と明確に区分されているか」「何時間分の残業代に相当するのかが明示されているか」が法的に問われます。この要件を満たさない固定残業代は、裁判所で無効と判断される可能性があります。
・勤怠管理の記録が不十分な場合のリスク
タイムカードやシステムによる記録が曖昧だと、元従業員が「実際にはもっと長く働いていた」と主張しやすくなります。客観的な記録がなければ、会社側は反論しにくい状況に追い込まれます。
賃金規程の整合性と勤怠管理体制の見直しは、セットで確認することがほとんどですので、こうした問題が発生したら、どちらもチェックしておきましょう。
退職金規程は「支給条件」まで明確になっているか?を見る
退職金制度を設けている企業では、退職金規程の不備が揉め事の原因になることも。
- 支給対象者の範囲(正社員のみか、パート・契約社員は含まれるか)
- 勤続年数の起算日・計算方法
- 懲戒解雇時の不支給・減額規定
- 自己都合退職と会社都合退職の支給額の違い
上記が、退職金関連で問題の火種となりやすい点です。
退職金は法律上の必須制度ではありませんが、一度制度を設けた以上、規程どおりの運用が求められます。「入社時に説明した内容と異なる」「懲戒解雇でも退職金が出るはずだ」といった主張を受けないために、規程の具体性と現場運用の一致を確認するようにしてください。
特に懲戒解雇時の不支給規定は、単に「支給しない」と書くだけでは不十分です。不支給が認められるかどうかは、当該行為の悪質性や会社への損害の程度によって個別に判断されるため、規程の記載内容が具体的である必要があります。
競業避止・秘密保持規程は実効性があるか?
退職後に「顧客リストを持って独立した」「同業他社へ転職し、社内情報を漏洩した」というトラブルも、社労士事務所へのご相談として頻繁に寄せられます。
こうした事態に備えるための規程として、以下が挙げられます。
- 競業避止義務規定(退職後の同業他社への転職・独立を制限)
- 秘密保持義務規定(業務上知り得た情報の漏洩を禁止)
- 個人情報管理規程(顧客情報・取引先情報の取り扱いルール)
ただし、競業避止義務は無制限に有効にはなりません。裁判所は制限の「期間」「地域」「対象業務の範囲」「代償措置の有無」などを総合的に判断して有効性を決めます。たとえば「退職後5年間・全国・すべての業種」といった広範な制限は、無効と判断されるリスクが高くなります。
また秘密保持に関しても、「どの情報が秘密に該当するか」が就業規則や誓約書に具体的に示されていないと、実際のトラブル時に主張が通りにくくなります。
まとめ
退職社員とのトラブルは、感情的な対立に見えて、実際は「規程の不備」や「規程と実態の乖離」が根本原因であることがほとんどです。見直すべき主な規程をまとめると、
- 就業規則(退職・解雇条項)
- 賃金規程(残業代の計算ルール)
- 退職金規程
- 競業避止・秘密保持規程
以上の4点が主なものです。
重要なのは、「規程の文書が存在するかどうか」だけでなく、「実際の現場運用と整合しているか」という点。どれほど丁寧な規程を作っても、運用が伴っていなければ法的な根拠として機能しにくくなるでしょう。
退職時のトラブルは、企業の信頼や今後の採用活動にも影響を与えます。トラブルが発生したタイミングは、社内規程を総点検する絶好の機会でもあります。「規程が古くて現状に合っていない」「どこから手をつければよいかわからない」という場合は、ぜひ社労士事務所にご相談ください。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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