起業直後の「初めての夏」は労務手続きが山積みです
「起業したばかりで手が回らない」こうした声は、創業期の経営者からよく聞かれます。会社設立の手続きや資金調達を乗り越え、従業員を雇用して事業がようやく軌道に乗り始めた頃ではないでしょうか。
しかし、新入社員の受け入れが落ち着いたのも束の間、5月末から7月にかけては、企業にとって非常に重要な「労務の年次イベント」が立て続けに発生します。それが「労働保険の年度更新」と「社会保険の算定基礎届」です。これらはどのような手続きなのか、具体的にご存じでしょうか?
放置やミスが招く「追徴金」と「従業員の不信感」
「今は営業活動で忙しいから、手続きは後回しにしよう」そのようにお考えの経営者様、少しお待ちください。これらの手続きを放置したり、誤った申告をしてしまったりすると、会社にとって大きなリスクとなります。
何かが起きてから対応するとなると、手遅れになってしまうこともあります。期限を過ぎると行政(労働基準監督署や年金事務所)からの督促や指導が入り、最悪の場合は追徴金(延滞金)が発生する恐れがあります。また、社会保険料の計算ミスは、従業員の手取り額や将来の年金額に直結するため、発覚した際に「この会社は労務管理がずさんだ」と、従業員の信頼を大きく損なう原因にもなりかねません。
6/1スタート「労働保険の年度更新」とは?
まずは、労働保険(労災保険・雇用保険)の「年度更新」について解説します。
年度更新の基本と申告・納付期限
労働保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間を単位として計算します。
年度更新とは、「前年度の確定保険料の精算」と「今年度の概算保険料の申告・納付」を同時に行う手続きです。原則として、毎年6月1日から7月10日の間に所轄の労働基準監督署やハローワーク、または金融機関で申告と納付を行う必要があります。
関連サイト:厚生労働省:労働保険の年度更新について
実務上の注意点・落とし穴(賃金の範囲)
専門家視点からお伝えしたい最大の注意点は「保険料計算の基礎となる賃金の範囲」です。労働保険の対象となる賃金には、基本給や残業代だけでなく、「通勤手当」や「賞与」も含めなければなりません。
一方で、代表取締役などの「役員報酬」は原則として労働保険の対象外となります。特に創業直後は、社長個人の報酬と従業員の給与の区別が曖昧になっているケースも見受けられます。クラウド給与システム等を利用している場合でも、集計設定が間違っていると過大(または過少)に保険料を納めることになるため、事前の設定確認が必須です。
※役員であっても、部長や工場長などの従業員としての身分も併せ持つ「兼務役員」の場合、労災保険や雇用保険で対象となる賃金の範囲が異なるケースがあり、創業期に間違えやすいポイントです。
関連記事:クラウド勤怠システム導入時の注意点と、チェックポイント
7/10期限「算定基礎届」の手続きと落とし穴
次に、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の「算定基礎届」について解説します。
算定基礎届(定時決定)の仕組み
社会保険料は、従業員の給与額(標準報酬月額)に一定の保険料率を掛けて計算されます。しかし、毎月変動する給与に合わせて保険料を改定するのは煩雑です。
そこで、毎年4月、5月、6月に支払われた給与の平均額を算出し、その年の9月からの1年間の社会保険料を決定します。この手続きを「定時決定」と呼び、提出する書類が「算定基礎届」です。こちらの提出期限も7月10日です。
よくある間違いと「4〜6月の残業」の罠
算定基礎届でも、「通勤手当を含め忘れる」というミスが頻発します。所得税の計算では非課税となる通勤手当も、社会保険料の計算では「報酬」に含まれる点に注意してください。
また、実務上の重要なポイントとして「4〜6月に支払われる給与(3〜5月稼働分の残業代など)が多いと、向こう1年間の社会保険料が高くなる」という事実があります。
繁忙期などでこの時期の残業が増えると、基本給が変わらなくても社会保険料の等級が上がり、会社(労使折半のため)と従業員双方の負担が増加します。業務の平準化が可能であれば、春先の残業時間をコントロールすることも、合法的な社会保険料の適正化(コストダウン)に繋がります。
※もし4〜6月が「たまたま一時的な繁忙期だった」という場合、条件を満たせば「年間報酬の平均で算定する特例」などの特例措置を利用して社会保険料の増額を回避できるケースがあります。気になる方は社労士へご相談ください。
労務手続きと税務処理はワンストップの専門家へ
創業1年目の夏は、労働保険の年度更新と算定基礎届という、期限が厳格で計算が複雑な手続きが重なります。相模原、町田、座間、海老名周辺地域で起業された経営者様で、「本業に集中したい」「計算が合っているか不安」という方は、ぜひ一人で悩まず専門家にお任せください。
当事務所は税理士と社会保険労務士の資格を有しており、税務と労務のワンストップ対応が可能です。
給与計算から税金、社会保険料の適正化まで、一貫したサポートを提供いたします。初回無料相談も実施しておりますので、お気軽にお問い合わせください。
【よくあるご質問(Q&A)】
はい、必要です。週の労働時間が短く雇用保険に加入していないアルバイトであっても、業務中のケガに備える「労災保険」は雇用した全従業員に適用されるため、年度更新の手続きと労災保険料の納付が義務付けられています。
概算保険料の額が「40万円以上(労災・雇用のどちらか一方のみ成立している場合は20万円以上)」である等の要件を満たせば、年3回に分けて納付する「延納(分割払い)」が可能です。
年金事務所から督促状が届きます。それでも無視して提出しない場合、年金事務所の職権で社会保険料の等級が決定されたり、立ち入り検査(総合調査)の対象になったりするリスクが高まります。
法人であれば、役員一人の会社でも社会保険の加入が義務付けられているため、算定基礎届の提出が必要です。ただし、役員報酬が年間を通じて定額であり変動がない場合でも、形式上の手続きとして提出が求められます。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」









