- 法人化 には様々なメリットがあるが… -
最初は個人事業主として事業を営んでいたものの、売り上げが増えて規模が大きくなると、法人化(法人成り)を検討しなくてはなりません。
というのも、法人化によって「取引先が増える」・「税金面で有利になる」など、様々なメリットを得られるからです。
ただし、その反面、デメリットもあります。よって、個人事業主からの法人化はそれらを考慮した上で、ベストなタイミングを見極める必要があります。
本コラムでは、株式会社の設立を前提に、法人化におけるメリットとデメリットを説明いたします。個人事業主やフリーランスの方はもちろん、これから事業を起こされる方も、是非一読ください。
法人化のメリット
四つのメリット
(1)社会的信用が高くなる
どうして法人は社会的信用が高いのでしょうか。それは本店所在地や設立年月日・目的・資本金・役員などの重要事項が、登記によって公示されているからです。個人ではそうは行きません。
これらは、社会的信用の判断材料として重要視されます。そのため、大手企業では取引条件として「法人であること」を前提にしているケースが大半です。
金融機関から借入を行う際にも、個人では審査が厳しくなりますが、法人化することで信用力が増し、融資や投資家からの出資など、資金調達面でも有利になります。
(2)所得の分散効果
典型が、配偶者の方がいる場合ですが、奥様が、ご自分の仕事を持っていない=ご主人の会社の「手伝い」をできるなら、奥様にも給与をだせば、法人の節税になります。また、給与から差し引ける「みなし必要経費=給与所得控除」を夫妻とも使えて、所得税・住民税も節税可能です。
そして、その金額が年間130万円未満なら、夫の扶養家族(被扶養者)として妻の健康保険料と厚生年金保険料は夫が加入している社会保険制度から負担されます。ちなみに、妻が扶養に入っていても外れても、夫の社会保険料は変わりません。
また、その社会保険料の約半額は、法人で負担なので(あとの約半分はご主人=社長の役員報酬から天引き)法人の節税にもなります。
(3)節税対策に有効
個人に課される所得税は、累進課税といって所得の高さに応じて上がります。
対して、法人に課される「法人税」は比例税率が適用されるので、普通法人なら利益に対して800万円以下は15%、それを超える部分は23.2%と一定です。(適用税は条件によって若干異なります。)
つまり、利益が高くなればなるほど、法人の方が節税効果は高くなるのです。
(3)賠償の範囲が限定できる
例えば、事業に失敗して大きな損失を出してしまった場合、株式会社や合同会社であれば、経営者の責任は「出資金の範囲まで」となります。
会社の資産と私的財産は分けられるので、出資金以上の金額を補てんする必要はありません。(経営者の個人保証による借入金などは除きます。)
(4)事業承継が可能
個人事業の場合は、事業者の死亡や体調不良等、何らかの理由によって継続が困難になった場合、基本は廃業となります。
誰かが引き継ぐにしても、事業用の口座や資産を後継者に渡さなければ、実質的な引継ぎにはなりません。しかし、それらを渡すのは「生前贈与」なので、高額の贈与税も発生してしまいますし、亡くなってからだと、相続税の課税対象になります。
その点、法人ならば、会社名義の口座や事業用資産は法人のものなので、経営者が交代しても問題ありません。名義もそのままなので、取引先とのやり取りにも支障を来しません。(ただし、会社の株式を後継者に移転、となると課税上の問題があるので注意が必要です。)
特筆すべきは税金面
法人化には税金面でのメリットがありますが、前述したもの以外にも様々な面で有利です。
- 経営者自身の所得税に給与所得控除が活用できる
- 消費税が最大二年間免除される
- 赤字を十年間も繰り越しできる
個人事業主の場合、自身の所得には給与所得控除が使えませんが、役員報酬という形で、自身に給与を支払えば最大195万円(令和二年以降)も控除できるようになります。
消費税についても、消費税の納付義務は、「二年前の売上高」が基準となります。個人から法人化すると、設立1期目と2期目は「法人としての売り上げがない」状態のため、最大二年は免税事業者となります。(ただし、免税には資本金や個人事業主時代の売上高、人件費諸々の条件があります。)
幣法人は「創業支援」を得意にしております。支援の結果、初年度から年間売上が1千万円以上になり、二年目以降もそれが見込めるお客様の場合、二年目の終わりで個人事業を廃業し、三年目からは法人となって消費税の免税要件を満たす形で運営すれば、法人での二年間、つまり個人事業主時代から数えて通算四年間も免税事業者となれるケースも多くあります。
また、個人事業主の場合、青色申告をしていると、その年の損失(要するに赤字)を翌年以後の最大三年間繰り越せますが、この繰り越しは法人であれば最大十年間に延びます。(欠損金が生じた事業年度に申告書の提出と、その後の各事業年度にも確定申告書の提出が必要。)
このように、法人化をすると税金面ではかなりの違いが出てきます。その分、税務処理も難しくなりますが、幅広い節税対策が可能になることは魅力でしょう。
法人化のデメリット
四つのデメリット
(1)法人設立の際に手間や費用が生じる
法人設立には、「会社の基本的規則である定款を定める」、「公証役場で認証を受ける」、「法務局で登記を行う」などの手続きをこなさなくてはなりません。
個人の場合でも飲食業や建設業であれば許認可の申請が必須ですが、必要のない事業であれば、開業届を提出すれば事業をスタートできます。法人で始める場合には手間がかかるのです。
さらに、諸々の手続きには手数料もかかります。手続きを専門家に代行してもらう場合は報酬も発生します。
(2)事務的負担の増大
法人の場合は複式簿記での記帳や会社法に準拠した書類の作成などが必要で、個人と比較すると税務処理がとても複雑です。
さらに、社会保険などの手続きも加わるので、事務的負担は重くなります。そのため、専門スタッフを雇ったり、税理士事務所にアウトソーシングしている会社がほとんどです。
また、株式会社であれば、定期的に株主総会や取締役会を開催する必要があります。取締役会を設置しないことも可能ですが、株主総会は省略できません。
(3)赤字でも法人住民税の支払い義務がある
個人なら、所得が赤字の場合には所得税や住民税の負担はなしです。
ですが、法人に課される「法人住民税」は、赤字であっても支払い義務があります。地方自治体によって金額は変わりますが、年間7万円程度を負担します。
(4)社会保険への強制加入
健康保険や厚生年金は法人であれば、雇用人数に関係なく強制加入となります。(個人事業では特定の業種で5名以上雇用の場合に加入対象。)
保険料は従業員との折半となるので、人件費負担は個人よりも重くなるでしょう。
会社設立にも費用がかかる
会社設立には公証役場に支払う定款認証手数料や定款謄本手数料、法務局に支払う登録免許税、印紙代など諸々含めると24万円程度のお金がかかります。(電子定款の場合は異なります。)
株式会社の場合、これに加えて「資本金」が必要です。
現在では資本金1円でも設立は可能ですが、事業運営面や、対外的な信用、資金調達の観点などから考えて、ほぼありえません。ですから、会社を起こす場合は「資本金+24万円」のお金が必要になってきます。
まとめ
事業が軌道に乗ってくれば、法人化を選ぶケースもありますが、本コラムで述べたようにメリットだけでなくデメリットもあることに十分注意しましょう。
法人化の判断は、ケースによって異なりますが、事業の現状や将来的な計画を考慮して判断することが大切です。
会社設立はやることが多く、ご自身で行うのはとても大変です。また、税金や保険料、その他の面で法人化のメリットを最大限享受するには、タイミングも重要です。
「会社設立の方法がわからない」「法人化はいつすれば良いのか」こんなお悩みは是非、相模原・町田・座間・海老名会社設立支援センターまでご相談ください。
手続きの代行はもちろん、節税対策や資金調達など、支援実績が豊富な税理士事務所がワンストップで問題を解決いたします。
執筆者紹介
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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