企業の経営者にとって、倒産リスクは常に頭を悩ませる問題です。倒産にいたる要因はいくつかあります。特に中小零細企業とって大きな要因となるのが、取引先の大手企業が倒産したというケースです。
そんな万が一の場合に備えるために「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」という制度がありますので、今回はこの共済制度の内容について解説していきます。
経営セーフティ共済の概要
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)とは、中小企業や個人事業主が、取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐための共済制度です。
無担保・無保証人で、掛け金の最高10倍(上限8,000万円)まで借り入れることができ、取引先が倒産した場合には共済金を受け取ることが可能です。
また、掛け金は基本的に経費として計上できるのが特徴です。法人の場合であれば、税法上の損金として。個人事業主の場合は、事業所得の必要経費として計上できます。
この共済制度は、中小企業倒産防止法に基づいており、1980年にスタートしました。1960年代後半、景気後退により企業の倒産が増えて行くなかで、取引先が限定されてしまった中小企業が多く、さらにこれらの取引先が突然倒産することで共倒れとなってしまうケースが続出しました。
そのため、企業の連鎖倒産を防ぐ共済として、現在までこの制度が残っているというわけです。
経営セーフティ共済のメリット
倒産防止共済には、以下のようなメリットがあります。
1.取引先が倒産した際、すぐに借り入れができる
本来の趣旨である、企業の連鎖倒産を防止するという観点から、取引先の倒産によって資金繰りが困難になった場合、かなりスムーズに共済金を借り入れることができます。
同じように民間の金融機関から借り入れたいと思ったとしても、取引先が倒産しているということで、審査はかなり厳しくなります。
経営セーフティ共済であれば、通常、申請から約30日以内には資金を振り込んでくれます。
2. 貸付制度が利用できる
取引先が倒産していなくても、共済から事業資金を借り入れることができます。
12ヶ月以上の納付実績があり、使途が事業資金なのであれば、原則、無担保・無利子で借り入れが可能です。
3.掛金を経費計上できる
共済の掛金は全額が損金算入(経費計上)できるため、税務上のメリットも受けられます。
経営セーフティ共済のデメリット
経営セーフティ共済は、少ない掛金で万が一の際に多額の融資が受けられるため、基本的には加入するのがオススメです。
一方で、多少ですがデメリットもあるので、確認しましょう。
1. 掛け金の負担がある
毎月一定額の掛金を支払う必要があり、売上の少ない中小企業にとっては負担になる場合があります。
2. 一定期間の解約制限
加入後一定期間(6ヶ月)は、共済の解約ができません。掛金を12カ月以上納めていれば、掛金の総額8割以上が戻ってきますが、契約から40ヶ月未満で解約してしまうと、元本割れをしてしまうので注意しましょう。
3.起業後1年以降しか加入できない
経営セーフティ共済に加入できるのは、起業から1年経った事業者のみです。
4.解約手当金は課税対象
解約時に戻ってくる現金「解約手当金」は、利益もしくは事業所得の扱いになり、課税の対象です。
経営セーフティ共済の加入方法
経営セーフティ共済への加入は、以下の手順で行います。
1. 加入資格の有無を確認
まずは、経営セーフティ共済に加入できる資格を満たしているか確認しましょう。
【加入資格】
・継続して1年以上事業を行なっている法人、または個人事業主
・法人の場合、会社法に定められた会社である
・常時使用している従業員の数が要件を満たしている
・(個人事業主の場合)確定申告をしている
・(法人の場合)資本金の金額が要件を満たしている
従業員数、資本金の額については、行なっている事業の内容や、法人の形態(株式会社、合同会社、有限会社など)によって異なります。
また、医療法人・農事組合法人・NPO法人・外国法人などの法人は、経営セーフティ共済に加入することができません。
2.申し込み
所定の加入申込書を、取引先金融機関を通じて提出します。
審査と承認
申込書が審査され、承認されると加入手続きが完了します。
掛金の支払い
加入後は毎月の掛金を指定口座に振り込む形で支払います。掛金は5,000円から20万円の範囲で自由に設定できます。また、前納も可能です。
注意点
経営セーフティ共済に加入する際には、以下の点に注意しましょう。
1.掛金の設定
企業の経営状況に応じて、無理のない範囲で掛金を設定することが重要です。掛金は途中で変更することも可能なので、様子を見て調整しましょう。
2.資金計画の見直し
共済に加入した後も、定期的に資金計画を見直し、適切な運営を続けることが大切です。節税したいからといって、最大限の掛金を支払う経営者もいますが、無理をしてまで支払うものではありません。
3.令和6年の税制改正
経営セーフティ共済は一度解約しても再度加入することができるため、制度本来の目的ではなく、掛金を損金参入できるしくみを利用した節税策として利用されるケースが多分にありました。
そのような目的での利用を防ぐべく、2024年度の税制改正により、制限がかけられることとなったのです。
具体的な変更点として、2024年10月1日以降に共済を解約すると、その後2年間は再度加入しても、掛金の経費計上(損金算入)ができなくなります。ご注意ください。
まとめ
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、中小企業や個人事業主にとって取引先の倒産リスクを軽減するために、非常に有効な方法です。取引先が倒産した際にはスムーズに貸付が受けられますし、そうでなくても事業に必要な一時金を借り入れることができます。また、掛金は経費として計上できるため、節税効果も期待できます。
一方、掛金納付期間が40ヶ月未満だと元本割れすることや、解約手当金を受け取ると益金となるなどのデメリットがあるので、その点を理解して加入を検討してください。
特に専門性が高い、節税対策や資金調達については、適宜アドバイスを受けながら進めていくことで、安定的な経営につながると思います。
執筆者紹介
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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