- 国民健康保険 と健康保険では制度自体に違いがある -
日本には「国民皆保険制度」と呼ばれるものがあり、国民はいずれかの公的医療保険に加入する義務があります。
会社員の場合は、勤務先の企業を通じて、社会保険(健康保険)に加入しますが、個人事業主の方は自分で国民健康保険に加入して、保険料を支払います。
ここで気になるのは、二つの保険料の金額。
保険料は必ず発生するものですから、できる限り抑えたいところですよね。
ですが、二つの保険料は算出方法が異なり、諸々の条件によっても金額が変わるため、単純な比較はできません。要するに、どちらの保険が安くてお得かどうかはケースバイケースです。
国民健康保険料は何故高いと言われるのか
冒頭で述べたように、国保と健保のどちらがお得であるかどうかは断言できません。しかしながら、世間では「国保は高い」と言うイメージがあります。
その理由については、国保と健保の特性の違いにあるかと思われます。
- 健保の保険料は会社との折半だが、国保は加入者が全負担
- 扶養制度の有無
健保の保険料は個人と会社で折半することが義務付けられているので、従業員にとっては、実質半分の負担で済むわけです。(企業によっては、福利厚生の一環で保険料を多めに負担してくれるケースもあります。)
これに対し、国保は加入者である方の全負担となるので、負担比率に差があります。
また、国民健康保険には、扶養認定制度がありません。そのため、家族であっても一人ずつ健康保険に加入することになり、扶養家族が多いほど負担も重くなっていきます。
このような理由から、「国保の方が高い」というイメージを持たれるのです。
保険料を抑えるには
(1)青色申告で節税する
国民健康保険料そのものを減額するのは中々に難しいですが、保険料対策としては所得控除を利用した節税が有効です。所得が控除されれば、所得税だけでなく、そこから計算される住民税や国民健康保険料も安くなるからです。
簡易簿記による白色申告では10万円の控除しか利用できませんが、青色申告での確定申告を行えば控除額を55万円にできます。さらに電子申告や電子帳簿保存などの条件を満たせば、控除の金額を10万円増やすことも可能です。
(2)国保組合を利用する
特定の業種や職種であれば、「国民健康保険組合」に加入できます。国保組合の保険料は一般的には定額となっているので、高所得の方でも保険料を抑えられます。
(3)減免制度の利用
失業や災害などで保険料納付が困難な場合には、保険料が減額される制度を利用できます。また、現在では新型コロナウイルス感染症の影響を配慮した減免制度もあります。
(4)法人化をする
前述したように社会保険(健保)には扶養制度があります。そのため、扶養家族の保険料負担が重い場合は、社会保険の加入を目的に法人化をするという選択もあります。
わざわざ法人化をする理由は、節税対策の幅が個人よりも広がるからです。実際に節税対策として、代表者一人もしくは家族を役員にして法人化されるケースも増えています。
ただし、従業員を雇う場合は、保険料の一部が会社負担になるので注意が必要です。社会保険料を支払うことで福利厚生が充実するものの、その分新たなコストが発生することになります。
事業が軌道に乗って収益が安定している場合は問題ありませんが、スタートしたばかりの状態では社会保険料の支払いが多大な負担になる可能性もあります。
法人化によって保険料を安くできる仕組みを手に入れることはできますが、条件によってはかえって負担増となってしまうケースがあることに留意するべきです。
社会保険加入のメリットとは?
先ほども述べましたが、社会保険では従業員の保険料を一部負担するので、それが新たなコストとして発生するデメリットがあります。
しかし、社会保険にはメリットもあります。
まず、社会保険に加入することによって福利厚生が充実するので、会社のイメージが良くなり、「社員の定着率アップ」「採用活動がしやすくなる」など、人材の確保においては有利になるでしょう。
また、事業主の方ご本人にとっても社会保険の方が、老後の年金が増えます。保険料の負担だけを見れば、国民年金保険料よりも厚生年金保険料のほうが負担は大きくなりますが、老後は国民年金からの老齢基礎年金だけでなく、老齢厚生年金も受給できるようになり年金収入は増額するでしょう。
また、国民健康保険は病気などで仕事ができない場合の収入保障はありませんが、健康保険には収入保障に該当する「傷病手当金」の給付があります。これは、簡単にいいますと、最長で1年半、仕事ができず、売上ゼロ=給料ゼロでも、全国健康保険協会というところからお金がもらえるというものであり、このような手厚さの面から見ても、社会保険にはメリットがあるのです。
まとめ
健保との単純比較はできませんが、扶養家族が多かったり、所得が高ければ、国保の保険料負担は重くなってしまいます。
高い国保の保険料を抑える方法には色々ありますが、条件次第では法人化も検討すると良いでしょう。ただし、法人化に関しては、メリットとデメリットを理解したうえで冷静に判断する必要があります。
法人化によって、新たに発生するコストはいくらぐらいか、節税がどれだけできるのか、しっかりと試算しておきましょう。ご自身で行うのが難しい場合は、専門の税理士などに相談することをおすすめいたします。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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