これから起業を考えている、または創業したばかりという企業にとって、最優先事項は売上確保や資金繰りといった、経営基盤の安定に直接的に関わる部分であることがほとんどです。しかし、創業初期の段階から「福利厚生制度」について計画しておくことも、実は非常に大切です。
「創業直後で雇用もまだなのに、福利厚生なんて考えられない」と思われる経営者も多いのですが、事業が拡大するとなって慌てて取り決めても、良いものにはなりません。
そこで今回は、創業時において意識すべき福利厚生の整備について、社労士の視点から解説していきます。
人材確保&定着には福利厚生の充実が不可欠
ここ数年、労働人口の減少が著しいために売り手市場が続いています。そして、日本においては、今後劇的に労働人口が増えることはまず考えられませんので、恐らくこの状況は長く続くでしょう。
そんな中、特に最近は、求職者が企業を選ぶ際に「福利厚生が充実していること」を判断基準にしています。安心して長く働けるかどうか、という一つの指標として福利厚生が注目されているのです。
たとえ創業直後であっても、求職者から選ばれる会社を目指すのであれば、福利厚生の整備は必須の時代となりました。そこで、まずは基本的な福利厚生である次の4つをご紹介します。
1. 社会保険制度の加入
創業時、最初に取り組むべき福利厚生制度は「法定福利厚生」と呼ばれる社会保険制度の整備です。これはすべての法人・事業主に法的に義務付けられているもので、健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険の4つが基本となります。
従業員として働いたことがあれば想像がつくでしょうが、これらの制度に加入している会社では、医療・老後・労災・失業といった人生の大きなリスクに備えています。企業側にとっても非常に重要なもので、保険未加入の状態で労災が発生した場合、企業は多額の補償義務を負うリスクもあります。
社会保険の整備は人材採用における基本中の基本とも言えます。「社会保険が整っていない企業には就職したくない」と考える求職者も多いため、従業員を雇用する予定があれば、必ず整備するようにしましょう。
2. 健康診断やメンタルヘルス対策の導入
従業員の健康を守ることも、福利厚生の大きな柱です。労働安全衛生法では、常時使用する労働者に対して、年に1回の定期健康診断の実施が義務付けられています。これは創業したばかりの企業であっても例外ではありません。
また、メンタルヘルス対策の一環として、ストレスチェック制度の導入や、外部カウンセラーとの提携などを行う企業も増えています。ストレスチェック制度は現在、従業員50人以上の事業所に義務付けられていますが、数年後にはすべての事業所で義務化されます。
創業期においては予算の制約もあるかもしれませんが、従業員のメンタルヘルスへ配慮することは、生産性の向上や離職の防止につながりますので、積極的に取り入れることがおすすめです。
3. 有給休暇制度の整備
創業時にありがちなミスとして、就業規則や労働条件において有給休暇制度の整備を後回しにしてしまうことがあります。
創業当初というのは、どうしても業務が過多になりがちであることに加え、一人目の従業員が友人知人であるケースも非常に多いです。そのため、就業規則や労働条件が曖昧になりがちで、さらに有給休暇となるとその存在を忘れられてしまうケースも度々見られます。
ですが、労働基準法では、半年以上継続して勤務した労働者には年10日の有給休暇の取得権が発生すると定められていますので、長期雇用をするのであれば有給の付与は必須です。
4. 任意福利厚生と企業独自の制度導入
「任意福利厚生」とは、企業が法的義務に基づかずに独自に提供する福利厚生制度です。例えば、ランチや飲み会の補助や慶弔見舞金、資格取得支援制度などが該当します。
創業時には、こうした制度の導入はなかなか難しいかも知れません。ただ、小さなことからでも良いので、導入を検討する価値はあります。というのも、独自の福利厚生はその会社の企業文化を反映するものとして、従業員からも世間からも認識されるからです。
「誕生日に有給休暇を付与する」「月1回のランチミーティング代を補助する」また、「サイコロを振って休日数を決める」といったユニークさを打ち出す会社や、恋愛は人生で大切な経験だとして「失恋休暇」を設けている会社もあります。
こうした制度は、単に福利厚生という側面だけでなく、企業文化の醸成にもつながります。特に創業間もない時期は、「どんな会社でありたいか」を制度で示すチャンスでもあるので、良いアイデアがあれば活用するのも一手です。
まとめ
創業期の企業にとって、法定以外の福利厚生を整備することはコスト負担が大きいと感じられるかも知れません。ただ、今後、事業規模の拡大を検討しているのであれば、いずれは避けて通れない道となります。創業当初から、数年後の未来を見据えて福利厚生の準備を整えておくことで、いざという時に慌てずにすみますし、人材定着の面から見てもメリットが大きくなるケースが多いのです。
売上を伸ばすことが最優先となる時期ではありますが、福利厚生の重要性についても認識しておくことで、経営基盤を安定させる事につながりますので、ぜひ理解しておきましょう。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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