会社設立コラム

中小企業の「住民税の支払納期特例」とは?

「住民税の特別徴収」と言って、会社員などの従業員が支払う住民税は、毎月の給与から天引きして、会社が代わりに市区町村に納めています。ところがこの制度、住民税の計算が難しかったり、支払い先が市区町村ごとに異なるので、非常に手間がかかります。

そこで小規模な企業へのこうした事務作業の負担を減らすため、「住民税の支払納期特例」という制度があり、これを利用すると、毎月の振り込み作業が年2回で済むようになります。

そこで今回は「住民税の支払納期特例」について説明していきます。

住民税の特別徴収=従業員に代わって、会社が住民税を納付する

住民税は、前年の所得に基づいて金額が決定され、翌年5月までに本人に通知されています。しかし、会社勤めをしている従業員については、会社に対して翌年の住民税の金額通知が行われていて、会社は、本人の給与から住民税を天引きし、会社から市区町村へ住民税を納めています。これを「住民税の特別徴収」と言います。

住民税はその年の6月から年4回にわたって納付する必要がありますが、住民税の特別徴収の場合は、毎月の給料から少しずつ天引きされるので、従業員にとって一度に大きな負担がかからないというメリットがあります。また、従業員は自分自身で納付手続きをする必要がなく、納め忘れを防ぐことができます。

特別徴収は会社への負担が大きい

従業員にとって、住民税の特別徴収は手間がかからず便利な制度ですが、会社にとっては負担が大きいのが実情です。

会社側は、従業員全員分の住民税を計算し、給与から天引きする必要がありますし、天引きした住民税を、毎月決められた期日までに市区町村に納付しなければなりません。

年末調整のように、従業員から書類を徴収したり、計算や手続きを行う必要はありませんが、毎月の給与計算時に住民税の計算と控除、納付額の集計などをしなくてはいけないのです。

特に、従業員の入退社が多い会社では、その都度手続きが必要となり、事務的な負担が増えてしまいます。

従業員10人未満の会社で使える「住民税特別徴収の納期特例」

そこで、従業員数が少ない小規模事業者の事務負担を軽減するため、「納期特例」というものが存在します。

納期特例とは、事業主が従業員の給与から源泉徴収した住民税を、通常の「月次納付」ではなく、半年分をまとめて納付できる制度です。この特例を利用できるのは、以下の条件を満たした会社です。

  • 常時雇用する従業員数が10人未満であること
  • 適切に源泉徴収義務を履行していること

従業員が10人以上になる場合や、過去に一度でも納期特例の要件を逸脱していた場合は、特例の適用が取り消されるので注意しましょう。

特例利用時の納付スケジュール

通常、住民税は各月末までに前月分を納付する必要がありますが、納期特例を適用した場合は、年2回の納付でよくなります。

・6月~11月分 → 翌年1月10日までに納付
・12月~翌年5月分 → 翌年7月10日までに納付

このスケジュールで納付を行う場合、従業員の給与から毎月天引きすることは変わりませんが、天引きしたお金はいったん会社が預かっておき、後日まとめて納付する事になります。

納期特例のメリット

住民税の納付回数が減ることで、次のようなメリットがあります。

(1) 税務管理の効率化

毎月の納付手続きが不要になるので、税務業務に関する負担が軽くなります。中小企業では税務担当者が専任でないことも多く、この負担軽減は大きなメリットです。また、納付回数が少なくなることで、計算ミスや納付忘れのリスクも軽減できます。

(2) 資金繰りの改善

毎月の小口の納付ではなく、半年ごとにまとまった納付が可能となることで、一時的にキャッシュフローの自由度が高まります。

(3) 他業務へ集中できる

税務業務に割く時間が減ることで、本業や戦略業務に注力することができます。特に、零細企業であれば経営者自身が経理業務をしていることも多いので、年12回の作業が2回に軽減される事で、他の時間に振り分ける時間が多くなるのは大きなメリットです。

納期特例の注意点

メリットばかりのように見える納期特例ですが、リスクも存在します。

(1)  自己管理の重要性が高い

半年分の住民税を一括で支払うため、納付期限に向けて資金を計画的に確保しておく必要があります。先ほどメリットの項目で「キャッシュフローの自由度が上がる」と言いましたが、いったん集めた現金を投資や運転資金に回し、回収できなくなったとなると一大事です。

半年後に決まった金額を納付できるよう、計画的に現金を確保しておきましょう。

また、キャッシュフローの管理もそうですが、特に、繁忙期や季節変動の影響を受ける業種では、より綿密な納付計画が必要になってくるので注意しましょう。

(2) 適用対象外となった場合の対応

従業員が10人以上になった場合、納期特例の適用条件から外れるため、通常の月次納付に戻ります。その際は、特例適用を申請した時と同じように、会社所在地の各自治体に「適用外の申請」が必要になりますので気をつけましょう。

納期特例の申請手続き

住民税ですので、納期特例の適用申請は各自治体に行います。「特別徴収税額の納期の特例に関する承認申請書」に記入し、会社所在地の管轄先に申請します。郵送でも持参でも構いません。

用紙のフォーマットはそれぞれの市区町村で異なっているので、各自治体のWEBサイトや窓口で入手しましょう。

提出後には審査がありますので、審査が通過すると自治体から連絡があります。

 

特例が承認されると、次回以降の納付から、半年分の一括納付ができるようになります。

まとめ

住民税の特別徴収納期特例は、事業規模が小さい企業にとって、毎月の事務作業を減らせる有効な手段となります。上手く活用すればキャッシュフローの改善にも役立ちますので、資金管理計画をきちんと立てられる人は、ぜひ取り入れてみましょう。

経営者自身や経理担当者の限られたリソースを、事業に集中させることで、事業を成長させることができるでしょう。また、納期特例を含む税務制度の多くは、自治体ごとに申請書が分かれているので、適用を受ける際は、各自治体のWEBサイトや窓口をチェックしましょう。

特例制度の活用のほか、自社の経営状況に応じてさまざまな制度を活用することが重要です。こうした制度は、普段の事業運営をしながらでは見つけることが難しいものでもあるので、専門家の知見を借りることも大切です。

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執筆者紹介

眞崎 正剛
眞崎 正剛税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。

慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」