「新しい事業に挑戦してみたい。でも、お金のことが心配で一歩を踏み出せない…」そんな悩みを持つ中小企業や個人事業主が使えるのが「中小企業新事業進出補助金制度」です。2025年から始まるこの補助金制度は、事業再構築補助金の後継制度となるものと言われており、最新の公表資料によると1500億円もの予算が取られる予定です。
正式な公募期間は未発表ですが、今後予定されている「中小企業新事業進出補助金」の要件や申請方法について解説します。
中小企業新事業進出補助金制度の概要
この補助金制度は、これまでやってきた事業とは違う分野で新しい挑戦をしたい企業を支援する制度です。新しい市場や、高付加価値事業への進出を後押しすることによって、中小企業の生産性向上を図り、従業員の賃上げにつなげることを目的にしています。
補助金額の上限
従業員数 | 補助金額の上限 |
20人以下 | 2500万円 |
21人〜50人 | 4000万円 |
51人〜100人 | 5500万円 |
101人以上 | 7000万円 |
なお、補助金額の下限は750万円となっており、個人事業主や零細企業のような小さな規模でも最低750万円の補助金を受けることができます。
補助率
かかった費用の2分の1
補助事業期間
交付決定日から14カ月以内(ただし採択発表日から16カ月以内)
補助金制度の対象者と必要な条件
この補助金は、「事業の成長・拡大に向けた新規事業への挑戦を行う中小企業等」が対象となっていますが、中小企業だけでなく個人事業主も対象になります。
対象
- 新しい分野に挑戦したいと思っている中小企業や個人事業主
- 事業所(オフィスや店舗)が日本国内にあること
- これまでやってきたビジネスとは違う、新しい市場で活動を始めること
必要な条件
次の要件を満たす、3〜5年の事業計画書を提出することが求められます。
①年間平均成長率+4%以上
新しい事業を始めてから、毎年の売上や利益、人件費の合計を4%以上増やす
②従業員の給与総額アップ
従業員1人あたりの給料を平均で2.5%以上増やすこと、または、その地域の最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上を実現する
③最低賃金が地域基準よりも+30円以上の水準
事業所が所在している地域の最低賃金よりも30円以上上乗せした額を支払う計画を立てる必要があります。
④「次世代育成支援対策推進法」に基づく一般事業主行動計画を公表など
この法律は、国や自治体、企業が一体となって、子どもや子どもを育てる過程を支援する方針が定められたものです。従業員に育児休暇を積極的に取得させることや、年次有給休暇の取得を促すなど、働き方の見直しにつながる計画を立てることが求められます。
賃上げ実績が認められれば、受け取れる補助金がアップする!
「スタッフの給料をもっとしっかり上げたい」という企業には、受け取れる補助金がさらに増えるというメリットがあります。それが「大幅賃上げ特例」です。
特例を利用すると、補助金の上限額がアップ(+500万円〜2000万円)しますが、具体的な上乗せ金額は従業員の人数に応じて変わります。
この特例を利用するには、適用事業者に認定される必要があります。
「大幅賃上げ特例適用事業者」の該当要件
- 事業終了時点で、最低賃金が50円アップしている
- 事業終了時点で、給与支給総額が6%アップしている
補助金の対象となる費用
補助金は、新しい事業に関するさまざまな費用に使えます。
建物や設備:店舗や工場の改修、新しい設備の購入など
システム導入:ITシステムや管理ツールの導入
人件費:新しい仕事に関わる従業員の給与や研修費
外注費:専門家や業者に依頼する作業の費用
広告宣伝:新製品・新サービスの広告宣伝費
これらは、新しい事業に直接関係するものだけが対象で、既存事業には使うことができないので注意しましょう。
補助金を受け取るメリット
補助金というのは政府からお金を借りるのではなく、もらうものです。言わずもがな、かなり大きなメリットがあります。
新規事業に対する初期投資の負担を抑えられる
新しい事業には、設備を整えたり宣伝をしたりなど、初期投資がかかるものです。補助金を活用すれば、その一部の費用負担を軽減させることができます。
企業イメージのアップ
「社員の給与を上げて、地域の経済にも貢献している企業」として、社会的な評価を高めることができます。採用活動の際、アピールポイントとして活用することもできますし、顧客からの信頼獲得につながるものでもあります。
補助金交付を受ける際の注意点
・返還を求められる可能性がある
・申請、報告の手続きが難しい
返還を求められる可能性がある
「補助金」というものは原則的に返済不要なのですが、規定に反した場合や、要件未達の場合は返還を求められます。
特に、中小企業新事業進出補助金制度は従業員の給与アップが目的ですので、要件2(一人当たりの給与賃金2.5%以上アップ、または都道府県の直近5年間の年間平均成長率以上のアップ)と要件3(都道府県の最低賃金+30円の水準)を満たしていない場合は、その達成率に応じて補助金の返還が求められます。
悪質な規定違反のケースだと、補助金全額を一括で返還するように言われることもあるので、補助金の使い道は必ず守りましょう。
申請、報告の手続きが難しい
これまで行われてきた「ものづくり補助金」などもそうですが、最近国が行っている補助金制度は、申請書類の作成が非常に難しいというのが特徴です。必要とされる書類も多く、また申請書に記載する内容も細かくチェックされるので、本業の片手間で作成することは、ほとんど不可能だと言われています。
採択後の報告業務はそれほど難しいものではありませんが、とはいえ、従業員の給与がきちんと上がったのか? など実績が求められるので、これも負担が大きいと言えるでしょう。
中小企業新事業進出補助金制度の申請方法
では、実際に申請する際の流れについて説明しましょう。
- 事前準備
事業計画書を作成します。収益性や実現可能性をしっかり考えますが、最も重要なのは要件を満たしているかどうかです。ここはかなりチェックされるので、専門家と相談しながら進めることをおすすめします。 - 書類の作成と提出
計画書や必要な書類を揃えて、指定された窓口に提出します。 - 審査
提出された計画が、内容や実現性の面で審査されます。 - 採択と事業の実施
採択されたら、実際に事業をスタートします。その内容に応じて、補助額が決定され、実際の補助金交付が行われます。交付の際には「補助金の請求」が必要になります。 - 実績の報告
該当の補助金事業が終了したら、国に対して事業の実績を報告します。
まとめ
「中小企業新事業進出補助金制度」は、新しい挑戦をする企業にとって、心強い支援策となっています。補助金額も最低750万円〜と非常に大きいものなので、新しい事業に挑戦しようと考えている事業者にとっては、かなりメリットの大きいものですし、賃上げが目的となっているので、従業員にとってもこの補助金を受ける会社に属しているということでモチベーションも高まるでしょう。
この制度を活用するためには、しっかりと計画を立て、適切な手続きが必要になりますので、専門家のサポートを受けながらしっかりと進めていくことが大切です。
特に専門性が高い、節税対策や資金調達については、適宜アドバイスを受けながら進めていくことで、安定的な経営につながると思います。
執筆者紹介

- 税理士眞﨑正剛事務所 社会保険労務士法人眞﨑正剛事務所
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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