会社設立 をする場合、社会保険と労働保険への加入手続きも視野に入れなければなりません。
社会保険は従業員の人数に関係なく、社長のみのひとり会社でも加入手続が必要です。
社会保険に関する概要と手続きは前回のコラムを参考にしてください。
一方、労働保険は従業員を一人でも雇用する場合に加入が必要になります。
逆に考えれば、代表取締役のみである場合や、役員しかいない会社であれば加入義務はありません。(役員は従業員ではないので、役員が何人いても加入ができません。)
本コラムでは、会社設立時における労働保険の概要について解説します。手続き詳細も記しますので、是非一読ください。
労働保険を構成する主な保険
労働保険とは2種類の保険を総称したものです。その2種類とは「労災保険」と「雇用保険」です。
(1)労災保険
労災保険は、「労働者災害補償保険」の略称です。
会社業務や通勤時に怪我をした場合、治療費が出ますし、怪我や病気が原因で休業した時に給与補償を受けることができます。
身体に一定の障害が残ったり、死亡したりといった重大な問題が起きた際の年金支給制度も含まれます。
労災保険対象となるのは、全従業員です。正社員、パート、アルバイトなど、雇用形態は問いません。
(2)雇用保険
雇用保険は失業した際にそれまでの給与額の一定割合を受給できる保険制度です。
育児や介護目的で休業した場合にも給付金が支払われます。
雇用保険は、原則として労働者を雇用する企業や、そこで働く労働者を対象に加入することになっています。
しかし、労働時間や雇用期間が短い場合は対象外となります。
- ■加入条件対象者の要件
- 1週間の所定労働時間が 20 時間以上であること
- 雇用契約が31日以上であること
雇用期間については下記のいずれかに該当すれば加入対象となります。
- 雇用期間に定めがない
- 雇用期間が31日以上
- 雇用契約に更新規定があり、31日未満で契約更新を拒否されていない場合
- 雇用契約に更新規定はないが、同様の雇用契約で雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合
手続き
労働保険に加入する事業所を適用事業所といいますが、労災保険と雇用保険を一括加入する一元適用事業所と、別々に加入する二元適用事業所の2つに分かれます。
下記に該当するものが二元適用事業所です
- 都道府県、市町村およびこれらに準ずるものが行う事業
- 港湾労働法の適用される港湾における港湾運送事業
- 農林、畜産、養蚕、水産事業
- 建設事業
上記以外は一元事業所ですから、一元事業所であれば、労災保険と雇用保険の加入手続きは一度にできます。また、加入手続きは専門家でなくても、事業主本人であれば行うことができます。(専門家に任せる場合は、社労士資格を持つ事務所でなければなりません。)
流れとしては、まずは労働基準監督署に労働保険の保険関係成立届を提出します。そして、その年度分の労働保険料を概算保険料として申告及び納付します。
労働基準監督署で労働保険番号をもらったら、公共職業安定所で、雇用保険適用事業所設置届及び雇用保険被保険者資格取得届の提出をします。
必要書類 | 提出期限 | 提出先 |
---|---|---|
保険関係成立届 | 保険関係成立の翌日から10日以内 | 事業所所轄の労働基準監督署 |
労働保険概算保険料申告書 | 保険関係成立の翌日から50日以内 | 所轄の労働基準監督署、所轄の都道府県労働局、各金融機関 |
雇用保険適用事業所設置届 | 設置日翌日から10日以内 | 所轄の公共職業安定所 |
雇用保険被保険者資格取得届 | 資格取得日の翌月10日まで | 〃 |
なお、労働基準監督署で手続きは一度行ったら、その後は必要ありません。労働保険料の年度更新手続きは必要ですが、新規に従業員が入社するたびに労災保険の加入手続きをしなくても良いのです。
この点は、雇用保険とは異なります。
保険料の計算
(1)労災保険の保険料
労災保険の保険料は、会社側が全額負担します。
保険料計算は、従業員ごとに個別で算出するのではなく、従業員の賃金の総額に労災保険率を掛けて算出します。(「労災保険料=全従業員の年度内の賃金総額×労災保険率」)
保険料率は業種によって変わります。林業や金属鉱業など労災リスクの高い業種は保険率も高く設定されています。
(2)雇用保険料の計算
雇用保険料は、従業員と雇用主の双方で負担します。保険料率及び負担割合は事業の種類によって異なります。(一般事業であれば、労働者の保険料率は5/1000、事業主負担は8.5/1000となっています。)
雇用保険料は、雇用保険料 = 給与額または賞与額 × 雇用保険料率で算出されます。
まとめ
労働保険は社会保険と違って、会社設立後に従業員を雇うかどうかで加入しなければならないかが分かれます。
慣れていないと、手続きが少々複雑ですが、一度、保険関係成立の届出をすれば、以降は必要な書類や案内は労働局や公共職業安定所から届きますので、最初だけが手間です。
ご自身で手続きをしても良いですが、面倒な場合は代行してもらうのも良いでしょう。
執筆者紹介
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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