肥大化した事業を管理しやすくする、税金などのリスク分散をするといった目的で、「会社を分ける」こともあります。
分社化は、国内企業でも取り入れるケースが増加しています。大企業だけではなく、中小企業でも分社化を進めるケースは多くなってきています。
分社化とは
分社とは法人が所有する事業の権利義務の全部もしくは一部を、分割によって別の会社に包括承継させる行為です。
分社には、大きく分けて2つあります。ひとつ目は「新規分割」、もうひとつは「吸収分割」です。
新規分割とは、分割による承継先が新しく設立される場合を指します。
吸収分割だと、既に設立されている会社へ事業を移すことになります。
法人が分社をする目的には色々ありますが、ひとつには税金対策があります。法人税は基本的に一律の税金が課せられますが、企業規模、所得金額によっては軽減税率が適用になります。
分社化によって所得を分ければ、税金負担も減らせるというわけです。
また、組織再編成を目的とする場合もあります。
「成長事業を子会社として独立させる」、「不採算事業の整理」等々、経営効率をあげるために分社化は有効だからです。
会社を分社化するメリットとは?
(1)税金負担の軽減
既に述べたように、分社化で法人税負担は軽くなります。
法人税税率は一律23.2%が課せられるが、資本金額1億円以下の中小法人かつ課税所得が800万円以内なら15%の軽減税率が適用されるからです。
また、中小法人は交際費の扱いなど経費の上でも利点がいくつか出てきます。
なお、年間の課税売上が1000万円以下の場合、同時に消費税の免税事業者となります。
ただし、免税事業者の場合、インボイス制度による弊害が出てくるので、こちらはひとえにメリットとは言いにくいです。
(2)事業のリスク分散
同一会社で複数事業を展開している場合、ひとつの事業の損失が会社全体に影響を及ぼします。
そのため、リスク分散のために、複数事業を会社単位で経営することもあります。
また、事業を会社単位で分けることは、事業の売り上げ、収益が見えやすくなり、経営状況の把握が容易になるメリットもあります。
なお、特定許認可が事業に必要な場合がありますが、特定事業以外の運営が禁じられているケースもあるため、その際には子会社を作って事業を分けなければなりません。
(3)融資
分社化して会社を複数化した場合、元々の会社の借り入れ状況は他の会社に反映されないため、金融機関からそれぞれの法人に対して融資を受けられる可能性があります。
そのため、資金調達がしやすくなると言えるでしょう。
また、各法人で代表者を別々にすると、その代表者を連帯保証人にすることが可能なため、銀行からの融資が受けやすくなります。
分社化によるデメリット
(1)税務調査でのリスクがあがる
既に述べたように分社化によって、税金負担が軽減される可能性が高くなります。
しかし、税金負担の軽減はメリットの一つであり、それのみを目的とした分社化は認められていません。
つまり、節税目的で運営実態がない会社を作ると、税務調査で租税回避行為と税務署に判断されてしまいます。
(2)維持費等のコスト増
別会社をつくるということは、会社設立のコストが発生します。また維持・管理コスト等も一社分増えることになります。
会社設立に関しては、およそ10~20万円程度に加え、社会保険料、福利厚生費や光熱費、等々が分社化によって生じます。
(3)経営が煩雑になる
今まで一社のみの経理処理だけで良かったものが、もう一社分増えることになるため、事務手続きの手間が煩雑になります。
経費は各会社で分けて計上しなければならないので、書類作成の手間は増えるでしょう。
また、分社化によって会社の統一性が難しくなるという可能性もあります。
会社である以上、年によっては片方が赤字の場合もあるでしょう。そのような時期が続けば、会社同士での軋轢が生まれ、それによる社内トラブルが生まれるリスクもあります。
分社化の方法
(1)単独新設型分割
既存事業の一部を分割し、新規の設立会社に承継する方法。親会社は新設法人の株式を100%保有する。
分割会社と新たに設立された会社は完全親子関係となります。
(2)共同新設型分割
企業グループ内の複数会社が保有事業を自社から引き離し、それらの各事業を集約して新たに会社を作る方法。
株式は譲渡された事業資産・負債状況に応じて、取得することになります。
よって、新設会社と分割元との関係は、その持ち株比率に変わります。
(3)分社型吸収分割
事業の一部を分けて、既存の別会社に事業承継する方法です。譲渡先には対価として事業を承継した会社の発行株式が割り当てられます。
割り当ての株式によっては、譲渡先が親会社となる場合もあります。
分社化以外の節税対策
節税のみを目的とした分社化は、手間もかかりますし、税務調査リスクを考えて辞めておくべきでしょう。
会社として、効果的に節税対策をしたいのならば、別方向での対策を検討しましょう。
節税には様々な方法があります。
例えば、経費の計上漏れをなくすという方法や、要件を満たすことで利用できる優遇制度の活用など、手段は一つではありません。
ただし、これらの方法は正しいやり方で実施しなければなりません。知識が不足していると、気づかずにグレーな節税をして、税務調査で指摘される可能性もあります。
このような事態を避けるためにも、税金の専門家である税理士に相談するべきです。
税理士であれば、効果的な節税だけでなく、幅広い税務のアドバイスを受けることが可能だからです。
執筆者紹介
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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