2016年の税制改正により、適格請求書等保存方式=インボイス制度が導入されました。
仕入れ時に支払った消費税額を納税時の納税額から差し引く「仕入れ税額控除」にこのインボイスが必要となるため、多くの免税事業者に影響が出ます。
本来、消費税においては、年間売上高1,000万円以下となる事業者の場合、納税義務が免除されるため、該当する事業者は「免税事業者」を選択していましたが、適格請求書発行事業者の登録を受けないと、インボイスが発行できず、取引相手となる課税事業者側が仕入税額控除を適用できません。
よって、この仕組みから「免税事業者との取引は消費税を従来よりも多く支払う」ことになり、双方の関係に大きく影響することになります。最悪の場合、取引を敬遠される怖れもあります。
インボイス制度はすでにスタートしていますが、前述の理由によって多くの免税事業者が登録を済ませて、適格請求書発行事業者になっています。
今回は、インボイス制度がもっとわかるように仕入税額控除に注目して深く解説していきます。
仕入税額控除とは
仕入税額控除とは、消費税を計算するときに課税売上の消費税額から課税仕入れ分の消費税額を差し引くことです。
消費税とは、そもそも商品・製品の販売やサービスなどの取引に対して課税されるもので、消費者が負担し事業者を介して納付されます。
しかし、まともに課税すると、生産や流通といった各取引段階で、二重三重に消費税が累積してしまいます。それを防ぐために仕入にかかった分の消費税額を控除するシステムがあるのです。この仕組みこそが、仕入税額控除です。
例えば、熊の木彫りが作られて売られる流れを想像してみてください。
・木彫りを作る職人は材料となる材木を仕入れます。
・この時の仕入れが1万円だとする。
・職人は成果品を2万円で小売業者に売る。
・小売業者は消費者に3万円で売ったものとする。
まとめると以下の通り
・材木を1万円で販売 ⇒ 売上1万円の消費税は1,000円
〇木彫りの職人
・材木を1万円で仕入れる ⇒ 仕入れの消費税は1,000円
・成果品を小売業者に2万円で販売 ⇒ 売上2万円の消費税は2,000円
〇小売業者
・熊の木彫りを2万円で仕入れる ⇒ 仕入れの消費税は2,000円
・商品を3万円で販売 ⇒ 売上3万円の消費税は3,000円
〇一般商品者(最終購入者)
・3万円で熊の木彫りを買う ⇒ 消費税 3,000円
上記の小売業者で考えた場合、仕入で発生した消費税が2,000円で売上にかかる消費税が3,000円です。この時、仕入で発生した消費税2,000円が仕入税額控除の対象となり、差額の1,000円を申告および納付することになるわけです。
木彫りの職人も同じです。仕入で発生した材木の消費税が1,000円で、売上消費税が2,000円ですから、仕入分の消費税を差し引いた1,000円を申告および納付します。
では、ここで木彫りの職人が免税事業者の場合、どうなるのか。
職人はインボイスを発行できませんから、取引相手である小売業者は仕入れた熊の木彫りについて、仕入税額控除ができません。
・材木を1万円で販売 ⇒ 売上1万円の消費税は1,000円
⇒申告・納税は1,000円
〇木彫りの職人(免税事業者)
・材木を1万円で仕入れる ⇒ 仕入れの消費税は1,000円
・成果品を小売業者に2万円で販売 ⇒ 売上2万円の消費税は2,000円
⇒申告・納税は1,000円
〇小売業者(課税事業者)
・熊の木彫りを2万円で仕入れる ⇒ 仕入れの消費税は2,000円
・商品を3万円で販売 ⇒ 売上3万円の消費税は3,000円
⇒仕入税額控除ができないので、申告・納税は3,000円
〇一般商品者(最終購入者)
・3万円で熊の木彫りを買う ⇒ 消費税 3,000円
こうなると、小売業者は今までよりも多くの消費税を支払うことになります。そうなれば、かなりの負担となるので、職人に対して、課税事業者になってインボイスを発行してもらうか、取引価格を下げてもらう等交渉するでしょう。
仕入税額控除の対象となる取引
仕入税額控除で控除対象になるのは課税仕入れに限定されます。
主に課税仕入れとなる取引は以下の通りです。
- 棚卸資産の購入取引
- 原材料などの購入取引
- 機械や建物、車両や器具備品などの購入・賃借取引
- 広告宣伝費や接待交際費、水道光熱費などの支払い取引
- 事務用品や消耗品の購入取引
- 修繕費にかかる取引
- 外注費にかかる取引
- 加工にかかる賃料や人材派遣費
- 警備などの外部委託料
このほかにも対象はたくさんあります。国税庁のHPに詳細が掲載されているので、そちらも参照してください。
適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れに関する経過措置
適格請求書発行事業者以外(免税事業者)からの取引については、インボイス制度導入から6年間の経過措置が設定されています。この経過措置によって、課税事業者は適格請求書発行事業者以外の請求書であっても一定分の仕入税額控除を受けることができます。
ただし、100%ではありません。従来通りの控除を受けるためには、やはり取引先が適格請求書発行事業者になっていなければなりません。
経過措置期間と控除割合は以下のとおり。
⇒免税事業者からの課税仕入れのうち「80%」が控除可
□2026年10月1日から2029年9月30日まで
⇒免税事業者からの課税仕入れについて「50%」が控除可
なお、経過措置期間での適用を受けるためには、帳簿および要件を満たした請求書の保存が必須となります。
なお、2023年10月1日から2029年9月30日までの間、国内での課税仕入れについては、仕入れ値が1万円未満の少額である場合、一定事項が記載された帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められます。これは少額特例といいます。
ただし、対象は、基準期間における課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者に限られます。
まとめ
仕入税額控除について解説いたしました。
こうして見ると、いかにインボイス制度が課税事業者・免税事業者双方に大きく影響するかがわかったかと思います。
仕入税額控除の適用を受けるためには項目を満たした請求書の保存が必要であり、その点でも同制度はやっかいです。
正しく制度を理解していないと、正しい申告と納付ができないので注意しましょう。
執筆者紹介
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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