会社経営において、役員の報酬をいくらにするかは、非常に重要な経営判断です。ニュースなどでは、多額の役員報酬を受け取っている経営者が話題になりますが、会社にとってはもちろん、経営者本人にとっても、役員報酬は必ずしも多ければ良いというものではありません。
そこで今回は、役員報酬を決める際に考慮すべきポイントと、税制上の対応について解説していきます。
1. 役員報酬とは
役員報酬とは、企業の取締役や監査役などの役員に対して支払われる報酬のことを指しています。役員報酬というのは基本的な月額報酬だけでなく、賞与や退職金が含まれている場合もあります。
創業したばかりで役員が社長本人しかいない場合や、1人会社であれば、代表取締役の報酬が役員報酬になるのだと認識すれば良いでしょう。
2. 社員に払う給与とはどう違う?
役員報酬と社員に支払われる給与には、いくつか違いがあります。
契約形態
社員は会社と雇用契約を結んでおり、労働の対価として給与が支払われます。一方、役員と会社は任用契約といって雇用契約とは別の形の契約を結んでいます。任用契約とは、取締役会や株主総会で決議された職務を遂行するための契約となります。
契約形態が異なるため、報酬の決め方にも違いがあるのですが、それは後ほど詳しく説明します。
税務上の取り扱い
社員の給与は、一定の控除(社会保険料や源泉所得税など)を差し引かれて支払われます。役員報酬も同様に税務処理が行われますが、役員報酬は法人税法上、経費として損金算入されるための条件が厳しく設定されています。
報酬額を変更するタイミング
社員の給与は、人事評価や業績に応じて柔軟に変更できます。しかし役員報酬の変更については、特定のタイミングでしか行うことができません。
3.役員報酬の決め方
人事院の調査によると、民間企業における代表取締役の役員報酬の平均は、5,196.8万円※でした。(出典:人事院「民間企業における役員報酬(給与)調査」)
当然ながら、それが全ての会社に当てはまるわけではありません。事業規模や従業員数によって、また所在地によってもその水準は大きく異なります。
では、役員報酬はいくらぐらいに設定するのが良いのでしょうか?役員報酬金額を決定する際に考慮すべきポイントは次の通りです。
会社の利益状況
会社の財務状況や、利益の見通しに応じて、役員報酬の総額を決めましょう。利益が安定している場合には、報酬を増やすことができますが、利益が減少している場合には、慎重に設定する必要があります。未来の損益を予測し、適切な金額を設定しましょう。
役員の役割と責任
代表取締役はもちろん、それ以外に役員がいる場合、その役員の職務内容や責任の範囲に応じて、報酬の金額を設定します。
代表取締役や専務取締役など、会社の経営に大きく関与する役員には、より高い報酬が支払われることが一般的ですが、これも状況によりますのでその限りではありません。
4. 役員報酬の支給に関する決まりごと
役員報酬の決定や、金額を変更する際の流れや期間については、会社法で明確に定められています。
会社設立後3カ月以内に決定する
役員報酬は、会社設立後3カ月以内に決定しなくてはいけません。この期限内に決定した役員報酬は損益として計上できますが、これ以降に決定した場合は、差額分が損益計上できなくなるので注意しましょう。
損益計上ができないということは、できなかった分の金額に法人税が課税されるということです。例えば、1〜3カ月目は月額40万円の役員報酬で、4カ月目以降から増額し月額50万円にしたとします。差額の【10万円×9カ月分=90万円】は経費計上できないので、法人税を払うことになります。
役員報酬の金額は、毎月同額
これは会社法の「定期同額給与」のルールによるものです。また、額面の金額と手取りの金額が同じでなくてはいけません。
役員報酬の変更ができる期間は、事業年度開始から3カ月以内
事業が軌道に乗って利益が増えたから役員報酬を増額したい、また逆に、税金対策のために役員の手取りを減らしたいといったケースもよくあります。ただし、役員報酬の金額を変更できるのは、事業年度開始から3カ月以内です。
仮に期中に役員報酬を変更すると、税務上の問題が生じ、役員報酬が経費として認められないことがあるので注意しましょう。
例外的に、会社の経営状況が急激に変化した場合(大幅な業績悪化や経営危機など)には、事業年度の途中で報酬を変更することが許されることもありますが、これには税務上の厳しい審査が伴います。
役員への賞与支給は、届出が必要
毎月の役員報酬のほか、役員に賞与を支給することも可能です。ただし、その際は税務署にて「事前確定届出給与に関する届出書」の提出が必要になります。
この届出をできる期間も法律で定められており、「会社設立後から2カ月以内」「事業年度開始または株主総会・取締役会決議から4カ月以内」「役員賞与について決議した株主総会から1カ月以内」となっています。
株主総会での決議が必要
先ほどの賞与の場合もそうなのですが、役員報酬を決定する際には、原則として株主総会での決議が必要です。株主総会や取締役会の内容は、税務調査でチェックされることがあるため、総会を開いたら必ず議事録を作成しましょう。
まとめ
さまざまな注意点をご紹介しましたが、役員報酬の基本は、「会社設立後、もしくは事業年度開始から3カ月以内に決める」「決定の際には、株主総会を開くことが必要」「毎月同額(定期同額)」ということです。一度決めたらその年度は基本的に金額の変更はできませんし、できたとしても損をする場合があるので注意が必要です。
なお、役員報酬は損益として計上できるという特徴があるので、うまく金額を設定することで大きな節税効果が得られます。役員報酬での節税方法については、また次回のコラムでご説明したいと思います。
特に専門性が高い、節税対策や資金調達については、適宜アドバイスを受けながら進めていくことで、安定的な経営につながると思います。
執筆者紹介
- 東京都町田市生まれ、神奈川県相模原市在住。
慶應義塾大学商学部卒
大学卒業後、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)勤務を経て
平成27年独立開業。
相模原地域を中心に、多くの企業の会社設立を支援。多数の講演実績。
出版書籍に
「会社と家族を守る事業の引き継ぎ方と資産の残し方ポイント46」
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